昨年度は大幅な円安が進んだにもかかわらず、貿易収支は赤字となり、経常収支も黒字が減少したので「日本企業の国際的な収益力が落ちている」さらには「日本企業の競争力低下で経常収支が恒常的に赤字になる」というような言説がメディアで目につく。しかし、これは控えめに言っても皮相で一面的な認識だ。
むしろ輸出額は2021年度と2022年度とも前年度比で二桁%の大幅な伸びとなっている。また日本企業の対外直接投資から受け取る所得(配当、利息、利益留保等)は2022年には27.6兆円と額で最大となった。同時に直接投資残高をベースに計算できる所得のリターン(%)も過去最高水準に上がっている。今回はこうした点をご説明しよう。
まず輸出、輸入額を含めた日本の貿易収支と経常収支推移を概括してみよう。図表1の上向きの青色の縦棒で示したのが輸出総額(四半期)であり、下向きの黄色の縦棒は同様に輸入総額だ。輸出総額は2021年度プラス25.3%、2022年度プラス16.4%と高い伸びとなっている。これは1997年までさかのぼって最も高い伸び率だ。
それにもかかわらず2022年度の貿易収支(青線)が18兆円の大幅な赤字に転じ、経常収支の黒字(黒線)も半減した。これは言うまでもなく、ロシアのウクライナ軍事侵攻を受けた国際エネルギー価格の高騰で輸入資源価格が高騰した結果、輸入総額が2022年度は前年度比で約35%も増加したからに他ならない。
しかしながら、これはエネルギー資源を海外に依存している日本経済の宿命のようなものであり、その点は昔も今も変わらない。ただし国際エネルギー価格の高騰は昨年度で終わり、すでに価格下落に転じている。それを受けて直近5月の輸入総額はマイナス10.2%(前年同月比)と減少に転じており、2023年度通期では貿易赤字の大幅な縮小と経常収支黒字の増加が見込まれる。
もっとも、貿易収支や経常収支の黒字をその国の「儲け」、赤字を「損失」のように受け止めるのは経済学的なナンセンスなのだが、今はその点には立ち入らないで議論を進めよう。