最悪は、心の中で後継者と考えてきた子息が会社から追い出され、赤の他人が経営に介入する事態を招いたり、「別の意図」を持った人に乗っ取られてしまったりするかもしれません。
しかし、この原因を作ったのは、あるいはこうなることをうすうす知っていながら放置してきたのは、まさにあなたです。
人は必ずいつか亡くなり、相続という決まりがある以上、株式は分散していきます。そして会社法をはじめとする法令がある以上、オーナー会社は株式が分散すればするほど経営が難しくなっていきます。その後、高い確率で問題が発生すると断言できます。
どのオーナー経営者であろうと、どんなオーナー企業であろうと、有効な手を打っていない限り、一定の株式分散リスクが存在する事実からは逃げられないわけです。
プロの「後妻業」は
本当にあると思え
「カリスマ経営者」の経営する企業が、いわゆる「後妻業」とでも呼ぶべき女性の登場によって乗っ取られた、大混乱を招いたケースが、私が相談を受けた案件でも複数思い出されます。
その名も『後妻業』という小説(黒川博行著、文藝春秋)や、それを映画化した『後妻業の女』(鶴橋康夫監督)という作品があるくらいですから、ドラマや映画の題材として興味本位に考えがちですが、似たような話は実際に存在すると見たほうがよいのです。私は映画を拝見しましたが、実際に経験したいくつかのケースが思い出され、背筋が寒くなりました。
前妻と離婚、あるいは死別した後、後妻となった女性は、それでも配偶者ですから、遺言書がなければ夫の死後財産の半分を法定相続する権利を持っています。甚だしき場合は、多少認知能力が弱ってきたタイミングで、自分側に有利な遺言書を夫に書かせ、あるいは書いた形式にして、前妻の子たちの配分をできるだけ少なくしようとするパターンもあります。
信じがたいかもしれませんが、こうした形で後妻になる人の中には、残念ながらプロのごとく、長い計画の中で巨額の資産を持つ「カリスマ経営者」に近づいてくる人が存在します。
資産持ちの「カリスマ経営者」には、すでに地域や業界で顔や名前をよく知られている有名人・名士も少なくありません。つまり、知っていて接近してくることもあるわけです。そして、いざ相続が発生したら、自分の立場が有利になるよう力になってくれる専門家とも通じています。
プロの目的は、ただ現時点での個人と会社の資産、そしてそれを自由にできる経営権だけです。その企業が生み出している価値や保有している技術、今後の成長していく可能性、従業員の雇用、それまでの歴史や社会的な存在意義などには一切関心がありません。あとは経営権を背景に、反対する人たちを堂々と追い出し、人事を乗っ取った上で財産を自由に処分するだけです。
ただしプロですから、実際に資産を獲得できる時が来るまでは、本当の目的を注意深く隠していることがほとんどです。有り体に言えば、「カリスマ経営者」の最期をひたすら待っているわけです。
精力的な経営者であればあるほど、結果を出していればいるほど、心から心配してくれる人の忠告を遠ざけながらも巧みに接近してくる危険な人たちを許してしまいがちです。そんな大げさなと思うかもしれませんが、こうした危険な構造を自ら知っておく必要があります。
元気なうちに死後のことを考えるなど、気分が良いものではないかもしれません。しかし、あなたが立派な経営者であればあるほど、あなたに資産があればあるほど、自分で気づき、自分で行動しなければいけません。そうできる能力がなくなった後、そして天寿を全うした後では、もはや何も手出しができないからです。