中小企業では見落とされがちな株主管理。設立時の出資者や相続による株主変更など、気がつかないところで株式が分散していることが多い。平時は何事もないようでも、分散株式があることで安定した経営ができないばかりか、経営権を失う事態も生じうる。『社長のための分散株式の集約で経営権を確保する方法』を上梓した喜多洲山氏に、分散株式による経営リスクの問題点を聞く。
あなたの葬儀の後で
何が起きるのか?
いきなりですが、ぶしつけな質問をお許しください。
「あなたは不死身ですか?」
まさか、イエスと答えた方はいらっしゃらないでしょう。もしあなたが、本当にご自身が不死身であると信じるなら、この先はお読みいただかなくて結構です。
不老不死の秘法がない以上、どのような実績を残したオーナー経営者でも、どんなに富を蓄えていても、やがて天寿を全うする日はやってきます。しかもその日は、ある日突然かもしれません。
では、単刀直入に、あまり想像したくない「その場面」をのぞいてみましょう。
自ら創業し、あるいは父祖の事業を受け継いで順調に経営を続け、多大な利益を出していたオーナー経営者のあなたですが、ある日突然、思いも寄らなかったタイミングで、不幸にも急死してしまいました。ようやく一連の葬儀を済ませ、自宅に、配偶者とお子さんたちが残っています。
「遺言書はあるのか? 内容はどうなっている?」
「こんな紙切れじゃ、本当の遺言なのか信じられないじゃないか。まさか、お前が作ったんじゃないんだろうな?」
「あまりにも私に不利な内容だ。私たち夫婦が晩年に面倒を見たのに!」
「法定相続や遺留分の割合は?」
「オヤジの次に会社を取り仕切ってきたのは僕だ。みんな経営のことなんて分からないでしょう?」
「そうかな? オヤジは普段から『何かあったら次はお前に頼むつもりだから』って繰り返していたんだから」
「お母さんは『一郎』ではなく、『三郎』にこの会社を継いでもらいたい。私がお父さんの株の半分を相続するんだから、あなたたちは黙って言うことを聞きなさい!」
「そんなことで腕のいい従業員や取引先がついてくるとでも思っているのか?」
「このまま、株がバラバラになったらまともな経営なんてできない」
「親や兄弟を疑って株を奪おうというのか?」
「私は経営に興味なんかない。株なんて今すぐ買い取ってほしいが、かといってこんな安い価格が妥当なの?」
「ちょっと待ってくれ。この株式、たいへんな額の相続税がかかってくるのでは? 果たして払えるのか?」
「常務の和男おじさんの一家も株を持っているだろう。言いつけてやる。必ず僕の味方になってくれるはずだ」
「最初お父さんと一緒に創業した佐藤さんも株を持っていたはずだけど、少し前に亡くなっているじゃない? あの株って、今どうなっているの?」
あなたは亡くなってしまったのですから、何を言いたくても、本心が何なのかを伝えたくても、もはや口出しはできません。完全に手遅れです。
また、愛する家族たちの仲が次第に悪くなるのを悲しんでいる場合でも、結局死んでしまえばみんな金の話か、と達観している場合でもありません。
こんな調子で、手塩にかけて育てた社業や従業員の将来はこの先どうなるのか、後継者と考えていた子息が順当に経営を引き継げるのか、取引先や金融機関への支障はないのかといくら心配しても、遺影の中からではもう手も足も出ません。由々しき状況です。