福田赳夫が始めた歴史的事業

 会議の開かれた場所の雰囲気や、会議前に行なわれた事前の話し合い、コーヒーブレイクでの一コマなど、何気ない会話の中にも、メンバーたちの思想や信条、人柄が滲み出ています。ゆえにできるだけ忠実に、当時の記憶はもとより、膨大なメモや書類をもとにして状況を再現することに努めました。

 そして、本書のかなりの部分は福田赳夫とヘルムート・シュミットを中心に描写しています。二人がOBサミットを牽引していたこと、それは彼らの間に存在した熱い友情が基礎にあったことはすでに触れました。そしてその友情を国際的にも稀有で強固なものにしたのが、二人の共通した価値観でした。

 二人の友情、二人の発言、二人の哲学を、多くの方々にどうしても知ってほしい。優れた信条と行動力を持った指導者がいたということを、理解していただきたい。そして特に、社会の指導的立場にある方々には、彼らの生き様や価値観に触れ、彼らの良き価値を自らのものにしていただきたいと切に願います。

 そんな思いが胸に去来し、それを単なる夢で終わらせてはならないと決心しました。また、もっと個人的な思いで言えば、「日本人が始めたこの歴史的事業をまとめる責任が自分にはあるのだ。偉大な二人への義務をはたさなければ」ということも、大きな動機になりました。

 基本的に本書構成は、時系列に従ってOBサミットの歴史をたどっていきます。折にふれて福田やシュミットをはじめ、主要なメンバーの横顔を記しております。巻末には年表や参加者のリスト、また、より深く理解されたい方のために参考文献を記しました。

 本来であれば、OBサミットがつくった提言や宣言のすべてを掲載すべきでしょうが、紙幅の関係から、基本的には要旨に留めました。

 ただし、第七章「人間の責任に関する世界宣言」は、極めて有意義な内容であり重要と考えましたので、章末に全文を掲載しました。ご一読いただければ幸いです。 

 福田赳夫が逝って四半世紀が過ぎても色あせない、いいえ、新たな分断と戦争に苦しむ世界で一層必要となった「心と心」という関係が再構築されるための、ほんの一助になれば幸いです。