いま、イェール大学の学生たちがこぞって詰めかけ、夢中で学んでいる一つの講義がある。その名も「シンキング(Thinking)」。AIとは異なる「人間の思考」ならではの特性を存分に学べる「思考教室」だ。このたびその内容をもとにまとめた書籍、『イェール大学集中講義 思考の穴――わかっていても間違える全人類のための思考法』が刊行された。世界トップクラスの知的エリートたちが、理性の「穴」を埋めるために殺到するその内容とは? 同書から特別に一部を公開する。

【だからか…】夫婦で「話が通じない」根本的な理由とは?Photo: Adobe Stock

「曖昧な意味」の言葉はどこまで通じているか?

 その研究では、日常会話に頻繁に出てくる曖昧な文が実験に用いられた。たとえば、「この服初めて着たんだけど、どう?」といった問いかけだ。

 あなたのパートナーや友人がそう尋ねるのは、似合っているか心配だからかもしれないし、自分に似合うと思っていてほめ言葉を誘っているのかもしれない。あるいは、新しい服を着ていると気づきもしないあなたに腹を立てている可能性もある。

 考えてみれば、曖昧な意味で使われる表現はいろいろある

 たとえば「ほっといて」という言葉は、「忙しい」という意味のほか、「あなたに対して怒っている」という意味でも使うことができる。「そのサラダ、どう?」というシンプルな問いかけも、「まずいよね?」や「私がつくったサラダについて、ほめ言葉のひとつくらい言ってもいいんじゃない?」といった意味にもなれば、文字どおり、そのサラダがおいしいかまずいかを尋ねているだけかもしれない。

 こうしたさまざまな意味を持つ言葉に関しては、皮肉と違い、それぞれの意味だとわかる声の調子などはない。

「夫婦」でも「赤の他人」でも理解度は同じ

 その研究で行われた実験は、ペアを組んだ参加者のどちらか一人に、いま紹介したようなメッセージをいくつか渡し、それをペアの相手に向かって発言して、指示された意味を伝えるというものだった。ペアの聞き手は、話し手が発言するたびに、4つの選択肢からその意図に沿うものを推測して選ぶ。

 参加者のペアは「ラボで初めて会った人どうしのペア」、もしくは、友人や配偶者といった「親しい間柄で組んだペア」のどちらかであった。夫婦ペアの結婚歴は、平均14.4年だった。

 この実験で話し手となった参加者たちは、自分が伝える意図は聞き手に理解されると自信を持っていた。当然、友人や配偶者とペアになった話し手ほど、その自信はことさら強かった。

 ところが、聞き手が旧知の相手でも初対面の相手でも、メッセージの意図の理解度に違いはまったく見受けられなかった。聞き手が話し手の意図を正確に推測できたメッセージの数は、平均すると半分にも満たなかった。

 つまり、結婚して14年たった後でも、相手にいくつもの意味に取れるメッセージを言うときは、声の調子に意味を込めても、半分の確率で、その意図が正確に伝わっていないかもしれないのだ。

「自分の持っている情報」で考えてしまう

 もちろん、友人や家族の言葉を誤解したい人も、誤解されたい人もいないだろう。ならば、なぜそのような誤解が生じるのか?

 人は何かを知覚すると、必ず自分が持つ知識に照らしてそれを解釈する

 この作業は自動的かつ無意識に行われるため、自分以外の人もみな──たとえ自分が持っている知識を持っていない人であっても──自分と同じようなものの見方をすると思い込みかねない。このように、自分の持っている情報からものごとをとらえる傾向のことを「自己中心性バイアス」と呼ぶ。

(本稿は書籍『イェール大学集中講義 思考の穴――わかっていても間違える全人類のための思考法』から一部を抜粋して掲載しています)