「言いたいことがあるのに、言葉がパッと出てこない」「話してるうちに、何が言いたいか見失う」
言語化に関するあらゆる悩みを、著書累計180万部を超える言語化のプロが一気に解決する1冊、『すごい言語化 「伝わる言葉」が一瞬でみつかる方法』が発売された。著者は、言語化コンサルタントであり、自身も60冊以上のビジネス書を出版してきた作家・木暮太一氏。企業経営者向けのビジネス言語化、出版コンテンツの言語化コンサルティング実績は毎月100件以上、累計で1万件を超えるという木暮氏は、まさに「言語化のプロ」。「言語化にセンスはいらない。考え方とフォーマットを身につけさえすれば、誰でも自分の頭の中を言語化させることができる」と、木暮氏は断言する。今回は、そんな本書より一部を抜粋・編集して、「言語化が下手すぎる上司の対処法」について解説していく。(構成:川代紗生)

すごい言語化Photo: Adobe Stock

人間の意識の95%は言語化されていない

 上司の指示が曖昧すぎて、何をすればいいのかわからない。ゴールが見えない。上司は抽象的な指示だけ投げて、さっさと次の打ち合わせに行ってしまった。

 そんなとき、あなたはどう対処しているだろうか?

「とりあえず、うまくまとめといて!」と言われたとおり自己流でやったはいいものの、「そういうことじゃなくてさ……」とダメ出しをされる。

 挙げ句、「わからないところ、なんでちゃんと確認しなかったの?」と、呆れられてしまう始末。こういうことが続くと、もはや、上司に質問するのすら怖くなってしまうものだ。

 そんな、「言語化が下手な上司」とのコミュニケーションにもやもや感を抱いている人に、ぜひ試してもらいたいのが、『すごい言語化 「伝わる言葉」が一瞬でみつかる方法』に書かれている「言語化」の技術だ。

 著者・木暮太一氏は、過去60冊以上の著書を出版してきたベストセラー作家であり、また、言語化コンサルタントとしても活動している、「言語化」のプロフェッショナル。

 木暮氏は、職場でこのようなコミュニケーションのズレが起きやすい要因の一つとして、「人間は、自分の感覚のうち5%しか認識できていない」ことが大きいと語る。

ハーバード大学のジェラルド・ザルトマン教授によれば、人間の意識の95%は言語化されていないそうです。感覚は持っていても、95%は自分で認識できずに「なんとなくそう思う」レベルになってしまっているということです。(P.5)

 私たちは自分の意識のほとんどを、言葉にできていないのだ。

「自分の頭ではちゃんと理解している。それを誰かに伝えようと思うと、うまく言葉にならないだけ」と思い込んでいる人も多いかもしれないが、実はそうではない。

「自分の頭の中がクリアになっていないから、伝わらない」のだ。

「言語化」とは、「どう伝えるか」ではなく「何を伝えるか」の技術だと木暮氏はつづる。

残り95%の自分の感覚を言葉にできれば、自分が望んでいるものを自分で明確に把握できるようになります。自分が手掛けている仕事の意義も自分でしっかり理解できるようになります。(P.5)
言語化の最終ゴールは、自分が頭の中で描いているものと同じものを描けるような言葉にすることです。(P.50)

それなら最初から言ってくれればいいのに…
「後出しで指摘をしてくる上司」の共通点

 コミュニケーションのストレスを抱えている人は、こう考えてしまいがちだ。

「きっと上司の頭の中では、この仕事のゴールがくっきりと浮かんでいるのだろうな」と。しかしそれこそが勘違いなのだ。

 上司は、自分の頭の中にあるイメージを言葉にして伝えるのが苦手なのではなく、そもそも、頭の中にイメージがないのである。イメージが浮かんでいないから、曖昧な指示になってしまうのだ。

 結果として、部下も、自分が何をするべきなのかが曖昧なまま仕事を引き受けることになる。

 すると、ある程度仕事を進め、上司にフィードバックをもらうタイミングになってはじめて、「思ってたのと違うんだよな」と、思考のズレをすり合わせることになる。

 部下がもってきた成果物をチェックするうちに、「ちがうちがう、もっとこういう仕事をやってほしかったんだよ」と気がついていく。

 上司は部下の成果物にダメ出しすることでようやく、思考の「言語化」ができていくのだ。

 部下としては「だったら最初からそう言ってよ!」と言いたくもなるが、「最初からこうしてほしいというイメージはあったけど、あえて言わなかった」わけではないのだ。

「自分の中でも、何がベストなのか言語化できていなかったから、言えなかった」のである。

自分が考えていることは自分が一番よくわかっていると思いきや、じつはそうではありません。自分ですらわかっていないことはよくあります。自分で自分を理解しようとするときも、言葉にしなければいけません。(P.31)

言語化するための「PIDAの4法則」

 さて、とはいえ、毎回そんな上司にイライラするばかりでは、ストレスがたまる一方だ。優秀な人は、上司に指示を受けたとき、どんなことを確認しているのだろうか。

 そこで、本書で解説されている、言語化するための「PIDAの4法則」を参考にしてみよう。

 これは、木暮氏が「言語化」について30年以上研究してきた結果見つけたという4ステップで、言語化コンサルティングの仕事をするときいつも、この法則に沿ってすすめているそうだ。

<PIDAの4法則>
・目的の整理(Purpose)
・項目を選定する(Item)
・その項目を定義する(Define)
・その定義が伝わる表現に当てはめる(Apply)

 上司の曖昧な指示に困ったときは、まず、このフォーマットに沿って情報の整理をするといいだろう。

 たとえば、「このPR資料、いい感じにまとめといて」と頼まれたとする。

①目的の整理(Purpose)

 最初に考えなければならないのが、「目的の整理」だ。

「いい感じの資料」とは、何のために必要なのか? 「いい感じの資料」を使って、上司はこのあと、どんな仕事をするつもりなのか?

 取引先に提出する、会議で社内に共有し、他部署の協力を仰ぐ……などなど、何のために使う資料なのか、目的を整理しよう。

②項目を選定する(Item)

 それができたら、次のステップは、「項目を選定すること」だ。

「項目を選定する」とは、ステップ①で明確にした目的を達成するためには、相手にどんな情報を伝えればいいのか、項目の取捨選択をすることだ。

 たとえば、「いい感じの資料」をつくる目的が、来週の商談で取引先へ提案し、自社との契約を決めてもらうこと、だとしよう。

 では、その資料にどんな項目を入れるといいのか? 自社のアピールポイントとして、どこをピックアップするかを整理する。

 たとえば、自社商品の「品質の高さ」をプッシュしたい、というのが上司の意図だとわかれば、それを資料に盛り込めると良いだろう。

③その項目を定義する(Define)

 3つ目のステップは、「その項目を定義する」ことだ。

 自社商品のアピールポイントまでは明確にできていても、その先の「定義」まではできておらず、そこで認識のズレが発生するケースも多いと、木暮氏は語る。

たとえば、自社商品の品質の高さを表現するとしても、「品質とは何か?」が定義されていなければ言葉にしようがありません。品質とは壊れにくさでしょうか? 効果が短時間で出ることでしょうか? 手間をかけて作ったということでしょうか?(P.56)

 つまり、ひとことで「品質が高い」といっても、商品によって、どんな状況が「品質が高い」とみなされるのかは異なるのだ。

 仕事において、キーワードになる言葉は、「定義」のすり合わせを、早いうちに上司としておけるといいだろう。

④その定義が伝わる表現に当てはめる(Apply)

 さて、最後のステップは、「その定義が伝わる表現に当てはめる」ことだ。

 たとえば、「品質が高い」=「壊れにくい」と定義したとしても、単に「うちの商品は壊れにくいです!」と表現するだけでは、相手は信じてくれない。

壊れにくさを表現したいのであれば、たとえば「10年たっても壊れない」と時間を入れて表現したり、「1年間の故障率がたったの0.001%」と割合で表現したりすることがあり得ます。(P.57)

 こうして、相手に「何」を伝えるかが固まったところで、ベストな伝え方・表現を考えるわけだ。

上司の「言語化」を手伝うつもりで質問しよう

 さて、このように、「言語化」で何を伝えたいのかを整理できれば、仕事もスムーズにすすむようになるだろう。

 上司も一人の人間だ。いつもどんなときも、完璧な指示を出せるとはかぎらない。時間がないゆえに、「ひとまず誰かにボールを投げてしまいたい」と、雑な仕事のふりかたをすることもあるだろう。

 そんなときは、上記の「PIDAの4法則」にのっとって、上司に質問してみるといいかもしれない。

 4つのポイントを掘り下げていくことで、上司にとっての「ゆずれないポイント」や、「自分では思いつかないような、新しいアイデアを出してほしいポイント」などが整理されていくはずだ。

「上司が自分に何を求めているのかわからない」「どんな仕事をすれば、成果につながるのかわからない」。仕事をするうえで生まれてくる、そんな漠然とした不安。

 もやもやした気持ちを晴らしたいときは、一度、「言語化」の技術に頼ってみるのはどうだろうか。仕事の突破口が見つかるかもしれない。