今年1月の社長交代会見で「クルマ屋を超えられない」と自らの限界を語り、佐藤恒治氏に経営のバトンを託した豊田章男前社長。トヨタの経営を立て直したが、自信を深めたことで本音も暴露するようになった。特集『史上最強 トヨタ』の#8では、業績やこれまでの発言から豊田氏の栄光と限界を解明する。(ダイヤモンド編集部 宮井貴之)
「クルマ屋」として業績を回復させた
トヨタ御曹司が自ら語った “限界”とは
トヨタ自動車会長の豊田章男氏は、創業家出身というプレッシャー、大規模リコール、未曽有の大災害という数々の逆境を乗り越えて現在のトヨタ帝国を築き上げた。その14年間の軌跡を、本人の発言とともに振り返る。
章男氏がこだわったのは「もっといいクルマづくり」というトヨタの原点回帰だった。2009年の社長就任当時、トヨタはリーマンショックを受けて赤字に転落していた。章男氏は販売台数の拡大を推し進めてきた従来の方針を転換し、「カイゼン」をはじめとしたトヨタ生産方式を徹底させることで損益分岐点を下げ、黒字転換を果たした。
世界同時不況からの景気回復もあって、14年には初めて年間販売台数が1000万台を突破。15年3月期決算には日系企業として初の純利益2兆円を達成した。
ただし、章男氏による経営改革は、電動化や自動運転などの新技術が引き金となった自動車業界の大変革に、トヨタを順応させるところまでは至らなかった。次ページでは、志半ばで退場の道を選んだ「章男氏の本音」に迫る。