トヨタ自動車が政治工作を活発化させている。米国での献金額は13年前の60倍に上る。特集『史上最強 トヨタ』の#7では、豊田章男氏が社長就任後、縮小したロビー活動を再び急拡大させた理由と、政治工作の内実に迫った。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
トヨタが自民党に強気に出られる理由
政治献金は日産自動車の1.5倍、ホンダの2倍
トヨタ自動車が近年、政治工作で心血を注いでいるのが、ドル箱市場である米国だ。米政府は、経営に重大な影響を及ぼす政策を次々とぶち上げており、トヨタとしては情報収集とロビー活動などに人とカネを割かざるを得ないのだ。
トランプ米大統領時代には、雇用対策を理由に日本から輸入する自動車への関税引き上げが検討され、バイデン政権に代わると脱炭素をお題目に電気自動車(EV)への優遇策が打ち出された。
トヨタのような内燃機関車が主流の自動車メーカーにとって、いずれの政治マターも対応策を間違えれば死活問題になりかねない。自社が有利になる“業界ルール”へ誘導するため、自動車メーカーが主要国政府への働き掛けを強めるのは、ごく自然なことだ。
ただし、トヨタは豊田章男氏が社長に就任した2009年以降に、米国での政治献金やロビイングを縮小した時期があった。
章男氏は10年、大規模リコール問題を受けて米議会の公聴会に召喚され、4時間にわたって厳しい質問を受けた。当時、トヨタは米国で44人ものロビイストを抱えながら、リコール問題を穏便に収束させることができなかった。結果として、章男氏は公聴会後の3年で、お抱えのロビイストを半減させている。
歴史的にも、トヨタの創業家である豊田家は政治と一定の距離を置いてきた。章男氏も当初は、舞台裏での政治工作を好ましく思っていない節があった。
ところがトヨタは近年、米政府への働き掛けを再び活発化させている。車載バッテリー工場を米国に建設するといった新規の投資案件が増えたことに加え、EV時代のルール作りなどで政治工作の重要性が増しているからだ。
次ページでは、トヨタの「政治献金の実額」や「お抱えロビイストの人数」の推移を明らかにするとともに、トヨタの命運を左右する政治課題や、同社が政治工作で目指すルールの実態に迫る。