ソフトウェア開発・運営にも
トリアージの考え方が重要
事故や災害などで多くの傷病者が同時に生じた場合に、重症度や治療緊急度に応じて治療や搬送の優先度を決める「トリアージ」は、日本では阪神・淡路大震災以降、広く知られるようになりました。
たくさんの患者が運ばれるような救急医療の現場では、医療従事者や設備のリソースが限られ、全員の命を助けることができないことがあります。こうした場合に、助かる命を確実に助けるために、優先度をつけるというのがトリアージの考え方です。
現在では、トリアージという言葉はソフトウェア開発でも用いられます。エンジニアなら誰しも、ソフトウェアの不具合、バグは直したいものです。しかし、全てのバグを直していては、リソースが足りません。そこで、何を直して何を直さないか、厳しい判断が必要です。
我々は「ワークアラウンド」と呼びますが、ある障害があっても、別の手順でやりたいことが達成できるのであれば、すぐには根本的な対応はせず、応急処置的にその手順を使うように顧客に理解いただくことがあります。また、年に1回、100万人に1人といった極めてまれな確率で発生するケースだと判断した場合は、対応しないといったこともあります。一方で、不具合によって個人情報などの重要な情報が流出してしまうと分かれば、これは絶対に直さなければなりません。
こうしたソフトウェアを直すか直さないかの基準を「クライテリア」といいますが、これをしっかり設けて、直さないものは直さないと判断していくのが、ソフトウェア開発の世界におけるトリアージの考え方です。このトリアージをなかなかできないところは多いのですが、限られたリソースを最適に使うことができず、結局はユーザーに迷惑をかけることになります。本来は多くのユーザーにより使ってもらえる部分や影響力の大きな部分に、修正や追加のリソースを割かなければならないところを、別の緊急度や重要度が低いところに割くことになるからです。