追加投資か撤退か
伸び悩む事業・プロダクトに向き合う

 先述したトリアージに関連して、伸び悩む事業やプロダクトにどのように向き合うべきかという話に触れたいと思います。

 阪神・淡路大震災で、実際に救急医療現場を撮影していたビデオを基に、トリアージの状況を取り上げたドキュメンタリーがあります。医療従事者はやはり、助かるかもしれない命を最後まで諦められないもので、次々に重体の人が運ばれる中でも、心肺停止状態の人の心臓マッサージをやめられないわけです。それを、責任者の医師がやめるように指示していく様子が映っています。

 ドキュメンタリーの中には、その責任者の先生ですら、心肺蘇生術をとめるのをためらうシーンがあります。まだ中学生の兄妹が心肺停止で運ばれてきたときには、「もうちょっと頑張ろう」と少し長めに治療を行い、最終的には諦めるのですが、この先生は兄妹のご両親に、状況と自身の判断について自ら説明しにいったということでした。

 伸び悩む事業やプロダクトには、テコ入れのための追加投資か撤退のいずれかしか選択肢はありません。その撤退の判断は基準を設けて冷酷に行わなければなりません。これはドキュメンタリーで描かれていたトリアージの状況に、重なるところがあると感じました。

 撤退により事業やプロダクトがなくなることで、顧客に迷惑がかかるという考え方もあるかもしれません。しかし長い目で見れば、何人もの開発・運用担当者をうまくいかない事業・プロダクトに充てるよりも、そのリソースを別へ振り当てた方が、最終的には多くの顧客の利益につながることでしょう。

 また株式会社であれば、株主への利益にもつながります。撤退で迷惑をかけることになる顧客には、ドキュメンタリーで描かれた責任者の医師のように、きちんと説明責任を果たした上で、やめるという判断はきちんと行わなければならないでしょう。

 伸び悩む事業で、投資してもらえずに収益向上だけを求められるのは、武器を取り上げられて戦争の最前線に取り残されるようなものです。『失敗の本質』で書かれている旧日本軍と同じような状態が、いまだに多くの組織で起きてしまっていると言わざるを得ないでしょう。