コスモ石油Photo:Bloomberg/gettyimages

石油元売り大手、コスモエネルギーホールディングスと旧村上ファンド系投資会社の攻防が激化している。対立の陰で注目が集まっているのが、コスモが6月の株主総会で講じた「秘策」である。買収防衛策の発動を巡る議案について、コスモ側が大株主である旧村上ファンド系の議決権行使を認めず、少数株主の多数決で可決したのだ。「株主平等の原則」に反するとの批判も一部で上がる異例の手法は、果たして是か非か。会社法の権威で、東京大学社会科学研究所の田中亘教授はこの手法は正当との見解を示す。田中氏にその理由を徹底解説してもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)

旧村上ファンド系にコスモが“秘策”
6月の株主総会でコスモ側が勝利

 石油元売り大手、コスモエネルギーホールディングスと「物言う株主」である旧村上ファンド系投資会社の対立が激化する中、コスモ側の“秘策”の是非に注目が集まっている。

 両者の対立は、昨年にさかのぼる。まず旧村上ファンド系によるコスモ株の5%超の大量保有が判明したのが昨年4月のこと。その後、コスモの経営陣と村上世彰氏らが面談を繰り返したが、昨年末ごろに双方の意見が対立。旧村上ファンド系は約20%まで株式を買い増した。

 これに対し、コスモ側は今年1月、旧村上ファンド系以外の株主に新株予約権を無償で割り当て、旧村上ファンド系の保有比率を下げる買収防衛策を導入していた。

 6月のコスモの定時株主総会で諮られたのは、買収防衛策の発動の是非を巡る議案だ。具体的には、旧村上ファンド系が所定の手続きを経ずにコスモの株式を買い増す場合、取締役会の議決で、防衛策を発動するとの中身だった。決議に当たって使われたのが、コスモ側の秘策だった。

 秘策とは、マジョリティー・オブ・マイノリティー(MOM)と呼ばれる手法だ。「少数派の過半数」という意味で、株主総会の議決の際に、特定株主を排除し、少数株主(マイノリティー)の過半数で賛否を決められる。

 コスモは買収防衛策の発動の是非を巡る議案で、MOMを使い、20%超のコスモ株式を保有する旧村上ファンド系や会社側の議決権行使を認めず、少数株主のみに議案を諮ったのだ。同議案は59.4%の賛成を集め、可決した。

 決議を受け、旧村上ファンド系はこう反発した。「株主総会で選ばれた経営陣が自分たちの気に入らない株主の議決権行使を認めないのは、到底許されるものではない」。旧村上ファンド系はすべての株主に議決権行使が認められていれば、賛成率は45.89%にとどまっていたとの推計も公表した。MOMを巡り両者の対立は泥沼化の様相を呈している。

 そもそも会社法の109条1項は「株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。」と定めている。特定の株主を除外するMOMはこの株主平等の原則に反しかねないとの批判は根強い。

 ではMOMは果たして是か非か。今回、ダイヤモンド編集部は、会社法の権威で東京大学社会科学研究所の田中亘教授を直撃した。次ページでは、田中氏が今回使われたMOMは正当であるとの見解を示したうえで、その理由を解説する。ポイントとなるのが、強圧性と呼ばれる概念だ。市場買い付けによる買収などで、一般株主が株式の売り急ぎを強いられるというものだ。田中氏は欧米などの事例などを基に、強圧性はどのような場合に生じるかなどについても説明する。