「実は、日本は世界で3番目に貿易障壁が少ない国です」――。国際知的財産法と通商政策のデータアナリストであるフィリップ・トンプソン氏は、Property Rights Alliance(財産権連盟、PRA)における「国際私有財産指数」「国際貿易障壁指数」の作成責任者だ。全米立法交流評議会に在籍していた時代には、TPPによる影響分析に関するレポートを執筆するなど、世界の貿易障壁に関する研究を進めている。そんなトンプソン氏に、日本の貿易状況について直撃した。(聞き手・執筆/イトモス研究所所長 小倉健一)
「TPPは日本を滅ぼす」と同じ
自由貿易反対論は米国にもあったが…
――2018年12月30日に発効した「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(CPTTP、通称「TPP」)を巡って、日本では「農滅びて国滅ぶ」「TPPは国を滅ぼす」「TPP亡国論」「アメリカの仕掛けた罠!」などとしたキャンペーンが行われ、実際に、国が滅ぶのではないかと真剣に心配する人も多かったです。23年現在、TPPが発効して時間が経過しましたが、日本が滅ぶような兆候は現在まで見られていません。フィリップ・トンプソンさんは、今の日本の貿易状況をどう分析しますか。
どのような国でも自由貿易協定を結ぶと必ず反対論が上がります。例えば、アメリカとメキシコの間で貿易論争が起きたことがあります。安価なメキシコ産アボカドがアメリカ市場に入れば、カリフォルニア産アボカドが壊滅するという懸念があったのです。
しかし、実際に起きたことは、アメリカ市場におけるアボカド需要の拡大でした(インタビュアー注:最近10年のカリフォルニア産のアボカドは、作付面積は微減しているが、価格は2倍以上に急上昇している〈https://www.californiaavocadogrowers.com/industry/industry-statistical-data〉)。
日本の「和牛」でも同じことが起きていますね。自由貿易と聞いて、日本の牛肉が打撃を受けると考える人もいたと思いますが、実際には、「WAGYU」という言葉で、市場そのものが大きく拡大しました(インタビュアー注:日本産牛肉の輸出、生産量ともに近年拡大傾向で推移)。ある商品の関税障壁をなくすことは、その商品のパイそのものを拡大させ、両国が恩恵を受けることができます。商品力も強化されます。
今、アメリカにいて、日本の車、お茶、ゲームをみんなで楽しんでいますね。日本の皆さんにもアメリカのものをもっと受け入れてほしいという気持ちはあります(笑)。
――実際に、日本は海外のものを受け入れない閉鎖的な国、閉ざされた島国なのでしょうか。資源がない日本のような国で、こちらが閉ざしてしまうと、相手国も閉ざすことになりかねません。
そんなことはありません。私が作成責任者を務める「国際貿易障壁指数2023」には、世界88カ国の関税や規制がどのような状況になっているかが調査・報告されています。次のことを伝えると驚く日本人も多いのですが、日本は、全世界88カ国中、3番目に関税障壁(貿易や規制)が低い国です。
ちなみに、オーストラリアが6位、イギリスは8位と高い順位にある中で、アメリカは65位、中国は78位、インドは最下位の88位と低い状態にあります。
東アジアは、1位のシンガポール、3位の日本のように規制が少ない国がある一方で、中国・インドのように大国でありながらも最悪レベルで関税障壁をつくっている国が同居している地域です(インタビュアー注:2位はニュージーランド)。
日本は、関税に関しては全体順位より少しランクを落とします。ですが、サービスに対する規制(外資系企業が日本で会社を立ち上げたり、子会社をつくったりする際にどれぐらいの規制があるかというもの)について、日本は東アジア・太平洋地域では一番参入障壁が低い国です。しかし、海外の大学が日本へ進出する際には、高い障壁があることが分かっています。
意外に思う人も多いと思いますが、アメリカの貿易障壁は非常に高いです。