OGPサイバー教育強化の背景は? Photo by HasegawaKoukou

サイバー攻撃が急増する昨今、サイバーセキュリティ対策は、国レベルで喫緊の課題である。日本では、2014年11月、サイバーセキュリティ基本法が成立し、2015年1月、内閣に「サイバーセキュリティ戦略本部」が設置された。こうした機運を受けて、陸上自衛官を養成する「高等工科学校」に、2021年4月、「システム・サイバー専修コース」が設置された。先日、サイバーセキュリティを巡って、小泉進次郎氏と対談したばかりの田原総一朗氏が、横須賀市の陸上自衛隊武山駐屯地内にある同校を視察。自衛官になるべく集まった高校生たちは日々どのような環境で過ごし、一体どのような教育を受けているのか? サイバーセキュリティの人材育成コース新設の背景と狙いは? 学校の共学化や、AI・ロボティクスに関するコースの新設などの今後の展望も含め、レポートする。(構成・文/奥田由意、編集・撮影/ダイヤモンド社編集委員 長谷川幸光)

小泉進次郎氏との対談後、
日本唯一の「自衛隊の高校」を視察

田原さん田原総一朗(たはら・そういちろう)
1934年、滋賀県生まれ。ジャーナリスト。早稲田大学卒業後、岩波映画製作所や東京12チャンネル(現・テレビ東京)を経て、1977年からフリー。テレビ朝日系「朝まで生テレビ!」等でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ「ギャラクシー35周年記念賞(城戸又一賞)」受賞。「朝まで生テレビ!」「激論!クロスファイア」の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。近著に『さらば総理』(朝日新聞出版)、『人生は天国か、それとも地獄か』(佐藤優氏との共著、白秋社)など。2023年1月、YouTube「田原総一朗チャンネル」を開設。 Photo by Teppei Hori

「私の地元の横須賀には、日本の中で唯一の『自衛隊の高校』があります。この学校にサイバーセキュリティの人材育成のコースが新設されたんです。田原さん、ぜひ取材してみてください」――。

 衆議院議員、小泉進次郎氏との対談(2023年6月22日配信)におけるこの言葉をきっかけに、ジャーナリストの田原総一朗氏をはじめとする我々取材チームは、横須賀へ向かった。

 神奈川県横須賀市の南方に、「武山駐屯地(たけやまちゅうとんち)」という、陸上自衛隊の駐屯地がある。

 海上自衛隊「横須賀教育隊」と航空自衛隊「武山分屯(たけやまぶんとん)基地」が隣接しており、一部の施設は共用されている。

 この武山駐屯地内にあるのが、「陸上自衛隊高等工科学校」(以下、高等工科学校)だ。全国から、中学を卒業した男子、1学年あたり約350人が自衛官になるための訓練を受ける、唯一の高等学校である。

 生徒たちは、敷地内の寮で共同生活を送る。規定の制服を着て、頭髪は基本的に短髪であり、丸刈りも見受けられる。普通高校の生徒と同じ教科書を使用した一般教育の授業を受け、並行して、自衛隊の軍備の装備品にまつわる工学系の専門教育と、自衛官として必要な防衛教養や各種訓練を行う防衛基礎学を学ぶ。一般教育については、神奈川県立横浜修悠館高校と提携をしており、高校の卒業資格が得られる。また、高校の教員免許を持っている教官が授業や試験を行なう。クラブ活動やさまざまな行事などの特別活動もある。

 勉強や生活の費用は基本的に無償だ。生徒の身分はまだ「自衛官」ではなく、「自衛隊生徒」として「特別職国家公務員」に位置づけられ、月額10万6900円(2023年1月1日時点)の生徒手当や年2回の期末手当が出る。

施設内見学

 校内を巡りながら、高等工科学校教育部長の中野昌英氏が田原氏に解説する。

 高等工科学校の主目的は、高機能化・システム化された自衛隊の装備品の運用や整備を、技術面で担う隊員を養成することだ。卒業後の進路は多岐にわたり、多くが陸上自衛官に任官するが、防衛大学校へ進学する生徒や、海空自衛隊の航空学生へ進む生徒もいる。

 3年生からはそれぞれ専門分野に応じた「専修コース」として、特別なカリキュラムを履修する。その専修コースに、2021年から、「システム・サイバー専修コース」が新設された。多発するサイバーアタックなどへのサイバーセキュリティ対策の一環として、システム・サイバー分野で活躍する人材を育成するためのコースである。

中野氏高等工科学校教育部長の中野昌英氏

「システム・サイバー専修コース」の生徒は、サイバー基礎(130時間)、数学III(120時間)、総合演習(48時間)の合計約300時間を、3年生の選択科目として履修する。プログラミングやOSの操作などの基礎に加え、総合演習では、システム上のホームページを構築したり、データの収集分析をしたりする。

 2年生の共通科目の情報I(90時間)、3年生の専門教育である情報工学(143時間)と合わせ、3年間で、約530時間、情報系の教育を受けることになる。

 現在、年間30人程度のサイバー要員が育成され、自衛隊の部隊に送り出されているという。

「日本のサイバーセキュリティは、他国に比べて弱いのか?」と田原氏が問いかける。

 中野氏が答える。「サイバー能力は各国トップシークレットの事項。加えて、サイバーセキュリティ能力というのは、サイバー分野以外も含め、さまざまな分野の総合力で決まるので、一概に他国と比較することはできない」。

「防衛省だけではなく、総務省や民間も含め、日本全体としてどのように役割分担をして、どのように対応していくのかを明確にしていく必要がある。それにはまずは、技術や技能を磨き、制度を整えることが重要だ」と中野氏。

 田原氏が畳み掛ける。「なぜ日本のサイバーセキュリティは後れを取っているのか? それは、結局政府が、防衛問題を真剣に考えていないのではないか。というのも、現在、防衛に関しては全面的にアメリカに依存している。だから主体性を持って取り組もうとしないのではないか? その点、政府に対して要望を述べることはないのか?」