社会が迷っているときには
「思考法」が武器になる

なぜ京大の「起業論」授業が医大生に人気なのか?<br />今こそ重要な「武器としての思考」瀧本哲史(たきもと・てつふみ) 京都大学産官学連携本部イノベーション・マネジメント・サイエンス研究部門客員准教授。エンジェル投資家。東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科助手を経て、マッキンゼー&カンパニーにて、主にエレクトロニクス業界のコンサルティングに従事。内外の半導体、通信、エレクトロニクスメーカーの新規事業立ち上げ、投資プログラムの策定を行う。独立後は、企業再生やエンジェル投資家としての活動をしながら、京都大学で教育、研究、産官学連携活動を行っている。全日本ディベート連盟代表理事、全国教室ディベート連盟事務局長、星海社新書軍事顧問などもつとめる。著書に『僕は君たちに武器を配りたい』(講談社)、『武器としての交渉思考』(星海社新書)。Twitterアカウント:twitter@ttakimoto

藤野 瀧本さんの『武器としての決断思考』では、第三者を納得させる「ディベート」と相手を納得させる「交渉」とは違うものだということを示し、仕事をどうするか、家庭をどうするか、人生をどうするかといった問いに自分で答えを出すための思考法を提示されていますが、これはぜひ学生に伝えるべき内容だと感じます。

 不安定さが増す中で、「自分には武器が必要だ」と感じる学生がこの本を手に取っているのでしょうね。

瀧本 日本は戦後長らく続いてきた「発展途上国キャッチアップモデル」が終焉し、次の成長モデルが見えてこないなかで、学生だけでなく社会全体が迷っている状態だと思います。

 明治時代末期は、開国か攘夷か、倒幕か佐幕かと世の中が大きく揺れ動きましたが、今の日本は当時と同様、パラダイムチェンジの過渡期にあると言っていいでしょう。

 市場経済と計画経済のどちらを志向すべきか。大企業中心の成長を目指すのか、イノベーションを喚起して新興企業の成長を促し、“大企業”の入れ替わりを促進するのか。

 今のような時代は多様な選択肢を検討したほうがいいと思いますし、学生もそれを敏感に感じ取っているのではないでしょうか。

なんと7割は株価が上昇!
日本はダメな大企業ばかりではなかった!?

藤野 僕は、成長が望めない大企業がある一方で、意外に頑張っている会社もあるというのが今の日本の姿だと思っているんです。

 最近、投資のセミナーなどで参加者の方に「2012年12月に国内の株式市場に上場していたすべての企業のうち、10年間で株価が上昇した企業はどれくらいあると思いますか?」と質問して手を挙げてもらうと、だいたい15〜30%程度で挙手する人が多い。でも実際は、この10年で上場企業全体の約7割は株価が上昇しているんですよ。さらに、株価が上昇した約1700社の企業は、10年間で株価も利益も2倍近くになっています。

 東証株価指数が2%しが上がっていないのに、これらの企業は営業利益の平均成長率が年7%、株価も年7%上昇している。

 この話をすると、セミナー参加者の方はみんなびっくりするわけです。実はこの10年間、日本の株式市場の足を引っ張っていたのはいわゆる「大企業」だったと。特に経団連に会長や副会長を出している有名企業や、東証一部上場企業のなかでも“名だたる大企業”とされる企業ほど株価が下がっている。

 メディアはこうした「ダメな大手企業」の情報ばかりを取り上げますから、世の中が不必要に暗くなっているんですよね。日本の株式市場や日本企業は、多くの人が思っているほどダメじゃない。