「上司が部下を理解するのに3年かかるが、部下は上司を3日で見抜く」と言われるように、“できるリーダー”を演じてもすぐに見破られてしまう。では、自信がない者はリーダー失格なのか? そんな不安を吹き飛ばしてくれる本が『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)だ。著者はブリヂストンで世界約14万人の多様な部下を率いた元CEOの荒川詔四氏。本書で荒川氏は、リーダーの「繊細さ」「小心さ」を武器にできる内向的な人が優れたリーダーに育つと明言。その実体験にもとづく説得力あるメッセージが多くの共感を呼びロングセラーとなっている。そこで本記事では、「優れたリーダーは部下を指導しない理由」について、本書の内容をもとにお届けする。(構成:樺山美夏)
「言い訳」をするリーダーに人はついてこない
「できない部下のせいで成果が出ない」
「メンバーと世代が違うから育て方がわからない」
「社会の変化についていけない」
こうした悩みを抱えたことはないだろうか?
チームマネジメントがうまくいかないリーダーが、「世代間ギャップ」や「社会変化」をその原因として挙げはじめたら、いくらでも言い訳ができる時代だ。
「ハラスメントが怖くて指導したくてもできない」という人もいるかもしれない。しかし、ちょっと考えてみてほしい。
業績不振の原因を、リーダーが自分以外の「何か」のせいにしていたら、部下はどう思うだろうか?
無責任なリーダーに、本気でついていきたい部下などいないだろう。自分が誰かの部下だった時代を振り返れば容易に想像がつくはずだ。
責任転嫁ばかりしているリーダーは、「自らの存在意義を自ら否定しているだけ」だと、著者は本書で述べている。
「逃げ道」をつくらない
逆に、リーダーシップを発揮できる人は、問題に直面したとき必ず守っていることがある。
「自分は悪くない」と逃げてばかりいる人は、リーダー失格。そういう人は誰かを「指導」するなどという不遜な考えを捨てなければいけない、と著者は一刀両断している。
「逃げ道」をつくらなければ、自分の頭で考えるしかない。
逃げ出したいと思うような場面に遭遇したときが、リーダーシップが「ある人間」になれるか「ない人間」で終わるかの分かれ目になるのだ。
著者がその崖っぷちに立たされたのは、入社2年目でタイ・ブリヂストンの工場に配属されたときだった。
在庫管理改革のため指導にあたったタイ従業員から猛反発され、四面楚歌の状態に。24時間稼働する工場で多忙を極める上司からも、「それはお前の問題だろう?」と突き放されてしまったのだという。
言葉も文化も異なる異国の地で窮地に立たされ、「もう辞めたい」とまで思った著者。想像するだけで胃が痛くなりそうな話だが、あなたならどうするだろうか?
「何もかも放り出して日本に逃げ帰りたい」と思う人もいるだろう。本書でも、人間には防衛反応があるため、「逃げたい」と思うのは自然な反応だと否定はしていない。
自分が変わらなければ人は動かない
だが著者は、逃げなかった。
部下も上司も環境も変わらなければ、「自分が変わるしかない」と腹を括り、考え方も姿勢も180度変えたのだ。
具体的には、タイの従業員を思い通りに動かそうと「要求」するのではなく、まず自分から現場に出向いた。そして、1人ひとりとコミュニケーションをとりながら、在庫管理の理想形について「どうすればいいか?」を一緒に考え、共に汗を流した。
これが出発点となり、「リーダーシップの根っこ」が生まれたのだという。
現場で働いた経験がある人ならわかると思うが、現場の状況も知らず解決策も示さない上司や経営者から、「結果を出せ」と命令されても素直に聞き入れられるわけがない。
ビジネスに限らず勉強でもスポーツでも、「言うは易く、行うは難し」。
「逃げ道」がない状況で、身体だけでなく脳ミソにも汗をかくほど考え続け、行動しなければ、人は変われないのだ。
これは、若い頃の痛恨の失敗から、著者が学んだことだ。
困難を「何か」のせいにして平然としている厚顔無恥な人間より、気が弱くてもやるべきことをやってみる繊細な人間のほうが、優れたリーダーになる可能性を秘めている。
部下の育成やチームマネジメントに悩んだ経験がある者にとって、本書は、リーダーシップとは何かを考え、原点に立ち戻るきっかけになるだろう。