「上司が部下を理解するのに3年かかるが、部下は上司を3日で見抜く」と言われるように、“できるリーダー”を演じてもすぐに見破られてしまう。では、自信がない者はリーダー失格なのか? そんな不安を吹き飛ばしてくれる本が『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)だ。著者はブリヂストンで世界約14万人の多様な部下を率いた元CEOの荒川詔四氏。本書で荒川氏は、リーダーの「繊細さ」「小心さ」を武器にできる内向的な人が優れたリーダーに育つと明言。その実体験にもとづく説得力あるメッセージが多くの共感を呼びロングセラーとなっている。そこで本記事では、本書の内容をもとに「部下に信頼されるリーダーのトラブル対処法」についてお届けする。(構成:樺山美夏)
「トラブル対応」でリーダーの資質がわかる
リーダーとしての責任能力を試されるもっとも重要な場面は「トラブル解決」だ。
トラブル発生時の対処の仕方ひとつで、優れたリーダーか否かが一瞬でわかると言っても過言ではない。
たとえば、「ダメなリーダー」によくありがちな対応に次のようなケースがある。
・トラブル報告された瞬間にイヤな顔をする
・部下を責めて責任を押しつける
・感情的に声を荒げたりイライラする
・正論をふりかざして部下を追い詰める
リーダーがこうした言動をとった場合、部下は何も言えなくなり、トラブルの経緯や原因についても正直に報告できなくなることがある。
トラブルで取り乱すリーダーは、部下の信頼を失うだけでなく、反発や批判を買う可能性も高い。
それがきっかけで関係が悪化すれば、当然、周囲にも伝わるため、現場の空気もピリピリしてチーム全体のモチベーションにも悪影響を及ぼしかねない。
するとどうなるか?
トラブル対応を間違った結果はすべて、ブーメランのようにリーダーに返ってくるのだ。
優れたリーダーの「トラブル解決」の極意
では、トラブルに強く、部下からも信頼されるリーダーの対処は何が違うのか?
その疑問に対し、本書は、具体的な解決策を提示している。
本書には、リーダーの心得となる名言至言がたくさん詰まっているが、特に印象に残ったのが次の言葉だ。
「トラブルが起きているからこそ、仕事は順調だ」と考える
一瞬、「え?」と思った人もいるかもしれない。
「トラブルが起きたら仕事に支障をきたすし、信頼関係も傷つくんじゃないの?」と。
筆者も「いったいどういうことだろう?」と思いながら読み進めたが、この言葉の真意を知って腑に落ちた。
仕事をしていれば、必ずトラブルは起きるのです。ましてや新しいことを始めるときは、初めからうまくゆくことなどありえません。順調にいっているときが例外なのです。だから、「トラブルを気に病むな。やっぱり起きたか。順調だな、と思え」と言いたいのです。(P.40)
このような心構えがあるだけで、冷静にトラブルに向き合えることは容易に想像できる。
しかし現実は、トラブルをネガティブなものとして捉え、感情的な言動に走ったり、面倒なことから逃げようとする人もいる。
あるいは、自信過剰で大胆な人の場合、トラブルに対して好戦的になり、自分の主張を無理に押し通そうとする。
トラブルで解決不可能なものはない
一方的な理屈を並べて強引にトラブルを収めようとしても、相手の反感を買うだけだ。
すると、「信頼を取り戻すどころか、不毛な争いを生み出す結果に陥ってしまう」と著者は指摘する。
グローバル企業のブリヂストンで世界中の無数のトラブルに対処してきた著者は、「ビジネスにおけるトラブルで解決不可能なものはない」と述べたあと、こう念押しする。
トラブルを解決するうえで、もっとも重視しなければいけないのは「信頼関係の回復」。
リーダーのプライドや立場など関係なく、信頼回復を最優先しなければいけないからこそ、「ここで逃げたら終わり。100%問題を解決することはできません」と著者は続ける。
このとき威力を発揮するのが、優れたリーダーが持ち合わせている「繊細さ」なのだ。
相手の立場、利害、感情を細やかに察知し、怒りや不満に耳を傾け、その真意を理解して最善策を考える。
たとえ相手の機嫌が悪くても感情的に反応しない「繊細さ」こそが、トラブル解決の局面で最強の武器になる。
自分の手に負えないトラブルが起きたとしても、冷静かつ誠実に対応すれば、信頼関係を結ぶことができるのだ。
40年以上、国内外でリーダーシップを発揮してそう確信した著者は、トラブルはむしろチャンスだと思える「楽観主義」が育っていったと本書で語っている。
順調だからこそトラブルは起きる
トラブルが起きるたびにビクビクしているようでは、まだ楽観主義にはほど遠いかもしれない。
でも本書を読めば、今まで自分を縛り付けていたトラブルに対するネガティブな思い込みが、おもしろいほど薄れていくに違いない。
そう思える理由は、次の言葉にも象徴されている。
「報告」とは、「トラブルを報告すること」である
驚くべきことに著者はブリヂストンのCEO着任早々、部下から「よい報告」を受けたときには、「そんなはずはない。順調にトラブルは起きるんだ。そんな報告は信じないよ。第一、よい報告は必要ない」と返事していた、と述べている。
部下にこのように返せるリーダーがどれほどいるだろうか?
リーダーがこのような考え方だと、部下もちょっと気になることでも報告するようになる。すると、コミュニケーションが増え、その都度、解決策を共有すれば「トラブルを報告しても大丈夫。むしろそのほうが得だ」と思ってくれるようになるという。
これが非常に重要で、本当にトラブルが起きたときの対応が後回しになったり、トラブル報告を怖がって隠蔽するような社風になるのを回避できるのだ。
今までトラブル対応に消極的だった人が本書を読めば、「トラブルこそチャンスだ!」と本気で思えるだろう。