高い配当は株主にとってむしろマイナス

【カリスマ投資家の教え】配当につられるあなたは「タコ」である奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)。
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』(ダイヤモンド社)など

 本当に競争力が高く成長機会の大きい企業を保有する場合は、高い配当はむしろ株主にとってマイナスとなります。なぜなら、保有している企業が配当部分を成長投資に回し、高いリターンを上げることができるとすれば、その配当を受け取ることは将来の企業価値増大を先食いすることであり、複利効果をあきらめることになるからです。実際にアマゾンやグーグル等の競争力が高く今後の成長機会の大きな企業や、バフェット氏のバークシャー・ハサウェイが無配であることは、発行体・投資家双方にとって合理的なのです。

 確かに高配当企業のリターンが市場平均よりも高い、という研究結果もありますが、この現象は理論的には「アノマリー(例外)」として処理されます。アノマリー(Anomaly)とは、現代ポートフォリオ理論や相場に関する理論の枠組みでは説明することができないものの、経験的に観測できるマーケットの規則性のことです。 アノマリーの代表的なものとして、「小型株効果」、「低PER効果」、「1月効果」などがあります。高配当企業のリターンアノマリーの背景についての個人的な解釈としては、きちんと配当を出し続けている会社は、経営者が利益を無駄遣いすることなく、きちんと株主に対して分配を行う信用に足る会社であるとの推定が投資家の間で働いているというものです。

 つまり大事なことは「(配当の原資でもある)利益を出し続けるほど強いのか」ということに尽きます。先述のタバコ会社についても「今後将来にわたって減配することはないよね」と思えるかどうかですね。タバコの健康被害が100%医学的に確認されるなかで長期的な趨勢をどう考えるかは個人の見解でしょうか。

 このように企業価値にとって、配当は短期的にはプラスもマイナスもありませんが、長期的には企業が営む事業の経済性によって異なります。判断する上で最も大事なことは、配当の有無そのものではなくて、その企業にとっての投資機会の有無と競争力の有無なのです。

※本稿は『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』(ダイヤモンド社)から一部抜粋・編集したものです