三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第22回は、ちょっと気が早いが「お年玉」の話題だ。
日本の子どもの投資能力は世界一?
投資デビューを果たした「道塾学園」創業家の令嬢・藤田美雪の友人たちは「自分たちのような子どもが投資なんて」と不安を抱く。美雪は自宅である洋風豪邸にふたりを招き、藤田家当主の祖父に引き合わせる。当主は日本の子どもは「世界で一番投資の能力が高い」と意外な持論を披露してふたりを鼓舞する。
世界一は大げさだろうが、藤田家当主の「お小遣いを自由に使える日本の子どもは経済観が磨かれやすい」という説には共感する。家事を手伝ってお小遣いをもらう形で、働いて対価を得る経験を早くに済ませるケースも多い。
そんな良い習慣があるのに、私が日本の金銭教育で長年残念に思っていることがある。お年玉の大半が貯金に回ってしまうことだ。
バンダイの調査によると、小中学生のもらうお年玉は平均2万6000円ほど。その最大の使い道は「貯金」で約4割を占める。自分で自由に使えるのはお年玉全体のうち小学生で3割弱、中学生でも5割弱にとどまる。親が関与してお年玉が貯金に回る姿が浮かぶ。
「取っておいてあげるから」と親に預けたお年玉が行方不明、というのは「あるある」だろう。私自身は、家庭が貧しく、三兄弟のお年玉が回収されて、そのままよその子どもに配るお年玉の原資になった切ない思い出がある。
子どもこそ「大人買い」を
「とりあえず貯金」という消極的な選択をやめて、金銭教育と思い出づくりのために私がお勧めしているのは「子どもの大人買い」だ。
あなたが今、ポンと数十万円渡されて「何に使ってもいい」と言われたと想像してほしい。かなりワクワクするのではないだろうか。小中学生の月のお小遣いは千数百円から2千数百円程度。平均的なお年玉の金額は、大人にとっての数十万円と同じようなインパクトがある。アルバイトを始めて1万円札のありがたみが薄れる前が「大人買い」の適齢期だ。
せっかくの「あぶく銭」だから、お気に入りのマンガ全巻イッキ買い、好きなアーティストのライブチケット、レゴブロックの高級セットなどなど、いつもとは違うお金の使い方を考えてみたい。何を買うか悩むのを含めて、忘れ難い思い出になるだろう。
大事なのは、何にお年玉を使うか、決断を子どもに委ねること。大人の眼には無駄使いのように映っても、口を挟んではいけない。自分自身の判断で「大人買い」を経験した方が教育効果は高い。失敗したところで、振り返ってみんなで笑える家族の思い出になるなら、安い買い物だ。
使い道は子どもに任せるべきだが、お金の価値、「その金額で何が買えるか」を教える機会としてはぜひ活用したい。たとえばスーパーに買い物に行って、そのお年玉で家族の食費が何日分賄えるかを知る、自分の服や靴の値段と比べてみる、といった具合だ。
「大人買い」したいものがない、あるいは数年かけて大物を狙うのなら、貯金ではなく、少額で良いので投資に回してみてはどうだろう。子ども自身の口座を開くのが大変なら、親の口座を使った仮装売買でも良い。自分のお金が日々増減するのを体験すれば、経済や金融に興味を抱くハードルも下がるだろう。
少し気が早いが、2024年のお正月に、ぜひ試してみてほしい。