『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

アウトプット Photo: Adobe Stock

[質問]
 中学に入学して美術の授業が始まって、自分は美術だけ成績が悪くて悩んでます。美術とか芸術って将来役に立つのかも分からないですけど、自分を表現するのが苦手です。先生は君は創造する力が少し足りていないから様々な世界を見てインプットして創造力を養いなさいとアドバイスしてくれました。
 なんか創造力っていう言葉に興味を持ち、創造力を身に付けたいと思います。インプットとか創造力とか分かんないけど、アドバイス欲しいです。よろしくお願いします。

私達の世界には「正解」以外にもたくさんの物事があります

[読書猿の回答]
 美術の成績が上がっても将来役に立つか分かりませんが、創造する力があると将来だけでなく今すぐ役に立ちます。

 まず美術の成績の方ですが、これは美術の先生に授業の度に質問に行けば上がります。
 基本的に美術の先生はよく分からないことを言うので、分からなくて引っかかったところをどんどん質問しましょう。聞いたことはメモして蓄積していくとなお良いでしょう。

 次に創造する力ですが、これは新しいものを生み出す能力や特性のことです。しかし目新しいだけだと創造的とは言われないので、新しい上に「良い」ものを生み出す話になります。

 美術以外の成績は良いとのことなので、あなたは「正解」する力は持っておられるのだと思います。学校で履修する教科の多くは、各分野ごとにまとめた「正解」が学習の中心となります。正解とは、正しいことが繰り返し確かめられ、正しさが確立しているものです。

 これに対して創造によって生み出されるものは、何しろこれまでにないものなので、正しいかどうか確かめられていません。実際に適用してみて、いわば事後的に良さや望ましさが確かめられるものです。たとえば作品なら、発表してみて、誰かを感動させたり、評価されたり、人気が出たりすることで、その価値が確かめられるわけです。

 このために、新しいものを創造するには、あらかじめ「正解」を学習しておいて、それを思い出すのとは、いくらか違うプロセスが必要です。一番の違いは、世に出してみないと/他人の評価に触れないと、これでいいのかどうか分からないことです。一言で言えば「間違っていても構わないから出す」ことができないと、新しいものは創造できません。

 ではインプットは創造する力を身につけるのに何の役に立つのでしょうか? ここでいうインプットがただ既存の「正解」を学ぶだけのだけなら、創造する力にはあまり関係しないでしょう。しかし私達の世界には「正解」以外にもたくさんの物事があります。
 例えば人々に愛好される作品の多くは、「正解」というわけではありません。ただ好ましかったり、どこか琴線に触れたり、「正しさ」以外の何かで評価されたり愛されたりしています。「正解」以外にも、世界には意味や意義、価値があることが分かれば、それだけ既存の「正解」から離れる勇気が得られるかもしれません。おそらくは、これこそが何かを創造することを一番底で支えているものです。

 最後になぜ創造する力は役立つのか、そして必要とされるのかをお話します。
 その理由は、すでにある「正解」だけでは間に合わない、新しい課題や困難が世の中にはひっきりなしに生まれるからです。特に世の中が変化すると、元々あった「正解」が正解でなくなる、といったことも生じます。

 世界は刻々と変化し、少しずつですが日々新しくなっています。私達は「正解」以外の何かをいつも必要とし、その何かが世界をまた新しくしていきます。