先の見えない時代にこそ必要な
2つの経営理論とは

 そんな先の見えない戦国時代に必要となるのが、入山氏が2019年12月に上梓した『世界標準の経営理論』の中で言及している「トランスフォーメーショナル・リーダーシップ」と「センスメイキング理論」という2つの経営理論だ。

 トランスフォーメーショナル・リーダーシップとは、「こんな社会や世の中を作りたい」といった理想を掲げる、ビジョン啓蒙型のリーダーのこと。一方、「センスメイキング理論」とは、正確性よりも納得性や腹落ちを重要視する考え方のことだ。

「戦国時代という変化の激しい時代の中では、正確な分析を行う時間はない。先の見えない激しい変化の中で生きるには、『こんな世の中作りたいよね』というビジョンを掲げ、それに対して周囲が納得し、周りを動かしていくことが重要になるのだ」(入山氏)

理想のリーダーが「政」である理由

 そしてこの、リーダーに必要な経営理論2つを兼ね備えているのが、後に秦の始皇帝となる「政」というわけだ。

 では、この2つの要素を政に当てはめて考えてみよう。トランスフォーメーショナル型のリーダーが持っているべきなのはビジョンだが、政が掲げているものはなにか。それはズバリ、「中華の統一」だ。

 そのビジョンを啓蒙し続け、物語が進んでいくと、だんだん仲間が増えていく。その仲間の筆頭になったのが、もう一人の主人公である「信」だ。信はもともと奴隷上がりの雑兵だったが、やがて政と交流していくことで、政の部下のようになっていく。

「そこでポイントとなるのが、もともと信が持っていたビジョンは、単純に将軍になりたかったということだ」と入山氏は語気を強める。貧しい出身だったからこそ、武将になって、のし上がればぜいたくな生活ができ、名誉も手に入るだろうという、俗人的な理由で物語が始まっていくのが『キングダム』なのだ。

 ところが、彼が政と出会うことで、だんだん政のビジョンに共感するようになっていく。そして物語が進んでいくにつれて信自身の考え方も変わり、政の考えるビジョンに納得(腹落ち)して政を助け、一緒に中華を統一したいと考えるようになっていくのだ。