中華コスプレの聖地が誕生、テレビドラマがきっかけ

 人気の爆発的な推進力となったのは、作家・馬伯庸氏の長編小説『長安十二時辰』を改編したテレビドラマだ。その人気ぶりを見て、2022年4月に、大唐不夜城の中核エリア・曼蒂広場にある大型エンタメ没入体験型施設「長安十二時辰」がオープンした。

 唐の時代の音楽、歌、芝居、食事、風俗、商品を楽しめるというのを主題にしたミニテーマパークと想像してもらえばいいだろう。「唐代市井文化生活体験施設」とも称するこの施設は、商業ビル3階分の高さの吹き抜けフロア、延べ面積2万4000平方メートルを使って、テレビドラマ「長安十二時辰」の舞台と唐代の市井文化コンテンツを再現している。ドラマで道具、セット、衣装、小物、メークなどを担当していたメンバーがそのまま、施設のデザインと商品開発に携わった。

 テレビドラマで覚えた情景と物が実際の目の前に、身の回りにあるという不思議な空間ができたのだ。中国漢民族伝統の民族衣装が近年、人気を集めているため、入場者も自然に漢服を着たくなる。実際、漢服を身に着けて入場すると、観衆か俳優かがわからなくなり、施設内をリアル社会と錯覚してしまうほどの雰囲気だ。この空間は年齢問わず多くの人々、特に女性たちの心をとりこにした。

 こうして漢服ブームが爆発的に広がったのだ。往時の原宿のコスプレのような情景が中国の古都・西安に現れたのである。「大唐不夜城」は一気に中華コスプレの聖地へと押し上げられた。

 この影響で、西安市はネット上で最も注目される都市ランキングの上位に入り、さらに多くの人々の関心を集めた。地元の夕刊紙「西安晩報」の報道によれば、同施設への入場は1日の受け入れ人数制限を設けているにもかかわらず、春のゴールデンウイーク連休中に、延べ6万人も訪れたという。

 ネットでも多くの動画などが拡散されていて、今もその輪を大きく広げている。

 今年6月以来、大唐不夜城を訪れた観光客は1日平均延べ30万人に達し、特に夜8時から11時までは来客が最も多いピークタイムを迎える。今回の中秋節と国慶節連休に合わせて、「長安十二時辰」では名月を迎えるイベントなども行い、観光客の関心度をさらに高めた。

 営業時間は午前9時から午後11時までとしているが、殺到する観光客のために、主要演目は1日に十数回も演じられているが、それでも入場券を予約できない人気ぶりだ。

「長安十二時辰」の現場を管理する責任者は、漢服ブームの威力について以下のように紹介してくれた。

「施設がオープンした当時、漢服のレンタルをやっている店はうちの直営店を含み、数店舗しかなかった。今や数多くの漢服レンタル店に包囲された感じになっている。しかも、漢服を身にするだけではなく、プロのカメラマンに写真や動画を撮ってもらうため、その関連の出費も安くて500元(約1万円)、だいたいは1000元(約2万円)かかる。腕のいいカメラマンになると、もっと高くなる。それも無視できない大きなビジネス市場となっている」