機能(人と組織)軸と経営課題軸
CFOの基本姿勢と経営者の役割

 次に、図表2-1の「機能軸」です。連載1回目で言及したT字モデルの横軸に相当するこの機能軸は、グローバル経営管理体制のもとCFOが所管する組織について、欧米のグローバル企業をモデルに作成しました。

 それは、グローバル本社(コーポレート)のCFO機能と地域統括会社の協働のもと、FP&A(Financial Planning & Analysis)、経理、財務(トレジャリー)、税務企画、IRなどの主要機能から構成されます。
グローバル本社(コーポレート)のCFO機能の主な役割は、次の通りです。

FP&A:財務価値向上に関わるCFOの業績結果責任と経営の意思決定支援を支え、同時に意思決定支援の効率化と高度化を推進。日本企業の経営企画と管理会計を統合した機能に相当。
経理:企業価値向上につながる透明度高く適切な財務報告を担う。そのため、ガバナンスとコンプライアンスの体制と仕組みの構築と、遵守徹底と監視により企業価値の毀損防止と経営品質向上をはかる。
財務:資本配分・資本政策・株主還元・ROEとROIC向上―などの財務戦略の立案と実行を担う。グローバル財務ガバナンス(財務規律)のもと、グローバルCMSの導入と運用を柱とするグローバルな資金と為替の一元管理方針を徹底する。
税務企画:グローバル税務ガバナンスとコンプライアンスの遵守徹底とともに、資金創出機能として企業価値向上に貢献する。
IR:ステークホルダーに対して、持続的な企業価値向上の目標、プロセス、進捗を訴求。透明度高く効果的なエンゲージメントにより説明責任を果たす。
購買:グローバル購買ポリシーに基づき、サステナブルかつスケールメリットを活かした効果的で効率的な購買活動を行う。

 CSRについては会社によって役割分担が異なり、CFO機能では数値関連目標の管理と、ESG関連の開示要請への対応などが主な役割となっていると思います。

 このようなグローバルCFO機能運営に際して重要なことは、CFOの傘下での各機能・各部門間の相互の尊重、協働、牽制(けんせい)、そして切磋琢磨(せっさたくま)です。この点は、次項で詳述します。

 最後に、図表2-1の「経営課題軸」です。「サステナブル経営軸」と「機能軸(人と組織)」による持続的企業価値向上の仕組みづくりと経営レベル向上を推進しても、日々新たな経営課題が浮上してきます。

・日々新たな課題が生じる企業経営の中で、もぐらたたき的な対症療法だけではなく、あらかじめ想定されるリスクには経営レベルを上げて整然と予防法的に対応する(もぐらたたき的対症療法から予防法へ)

・そのために「持続的な成功をもたらす科学的で合理的な経営管理の仕組みづくり」

 を重要課題と認識しながらも、目前に迫る新たなリスクに対して準備が整っていないことが多いのが現実です。経営課題軸には、課題解決にCFOのリーダーシップや積極的な関与が期待される重要項目を記載しました。
  
 この1年から2年でも、地政学リスクの顕在化に伴うサプライチェーンの混乱やインフレの進行、地球温暖化に伴う環境経営に対する要請の増大、DX推進と人的資本経営の推進などへの要請の高まりなど、新たな経営課題が生じています。有限な経営資源と時間の制約の中で、経営課題の整理と適切な優先順位付けは、経営結果に直結する重要事項です。この「3軸俯瞰」的発想は、本質的な経営課題を浮上させ把握する点でも有効でした。

「3軸俯瞰」の最後にその活用方法について若干触れたいと思います。筆者は、新たな経営課題が生じた際に、真因把握と並行して、「3軸俯瞰」的思考により、「サステナブル経営軸」の該当プロセスと「機能軸」の担当機能を判別して、全体最適な解決策立案と実行を心掛けてきました。経営課題を3軸で有機的に結びつける「3軸俯瞰」的思考は、効率的な課題解決促進につながってきました。 
 
 次に、CFOにとって大切と考える価値観や基本姿勢について、少し触れてみたいと思います。

 グローバルな経験から学び、大切に思うことは、 

・インテグリティー(真摯・誠実・高潔・品位)を重視し、フェアであること
・意見の多様性を重んじ、オープンでフランクなコミュニケーション
・チェーン・オブ・コマンド(指揮命令系統)を尊重すること
・3つのS:Sensitivity(感性)、Sense of urgency(危機感)、Speed(スピード)
・3つのI:Integrity(真摯・誠実・高潔・品位)、 Insight(洞察力)、 Innovation(革新)
・3つのG:Group、Global、Governance

 などです。これまでの経歴における様々な経験や学びは、時代を超えて現在のDE&Iの概念に通じるものも多く、グローバル経営のベースであり、自身の価値観形成にもつながってきたと考えています。

 中でも、「Integrity(インテグリティー)」は、日本語では真摯、高潔、誠実などと訳され、それらの統合されたものと筆者は捉えているものです。ピーター・ドラッカーは、「経営管理者が学ぶことのできない資質、習得することができず、もともともっていなければならない資質がある。才能ではなく真摯さである」(『現代の経営』、上田惇生訳、ダイヤモンド社)と述べるなど、グローバル企業経営において重要な価値観と考えています。

 CFOの基本姿勢は、上記の価値観のもとで、「結果志向」のもと業績結果責任を担い、財務バックグラウンドの役員として、「数値目標管理による効果的な経営管理を行なって、経営戦略や経営計画を目標達成に導く」姿勢です。すなわち、経営の羅針盤であり、経営のナビゲーター役であろうとする姿勢と考えています。

 経営のナビゲーター役としては、経営論議が地から足の離れた空中戦にとどまらぬよう、客観的に可視化された経営データを提供して、地上戦で現場と現実に根差した実態改善の討議を客観的にファシリテートすることも求められます。

 危機遭遇時には、「経営は結果がすべて」を胸に、一見解決不可能な経営課題も自己責任で受けとめ、最後まであきらめずに解決に挑み続けるリーダーシップを発揮―は、危機(クライシス)体験から学んだ大切な姿勢です(連載1回目を参照)。

 日本電産の経営幹部が常時確認しあっていた「経営は結果がすべて、経営は数値管理、経営はリスク管理」は、CFOの役割も端的に表す至言だと思います。

 CFOは、その任務遂行の過程では、業績結果責任とビジネスパートナーとしての意思決定支援の観点からCEOへの率直な意見具申が求められ、状況によっては、信念と胆力が求められる場面もあると思います。心がけたことは、私心を捨てること、視座の高い大局観に基づく経営俯瞰、価値創出と毀損防止のバランス、中長期戦略と短期計画の長短バランス、などです。