日本への団体旅行も増えるかと思ったところで
福島第一原発の処理水問題が起きた

 とはいえ、10連休や15連休を取った人たちはプチ旅行で済むはずもなく、渡航先に海外を選んだ人も多かったようだ。「ようだ」というのは、政府統計局が海外に出かけた人たちの統計数を出していないから。メディアもあえて海外旅行についての話題を避けているようだった。「消費はまず国内から」、そんなムードが業界に流れていたのかもしれなかった。

 それでも、さまざまな情報から海外旅行を心待ちにしていた人たちの存在が伝わってきた。タイはすでに今年9月に、来年2月までの中国人観光客のビザ免除措置を発表していた。また今年8月にはアメリカ、イギリス、日本、オーストラリア、韓国など、コロナ以降中止されていた団体旅行も解禁され、国慶節連休の海外旅行ムード復活に一役買っていた。

 そのうち、特に日本行きは今春から個人旅行が好調で、「今年7~8月の夏休みだけで、個人旅行を含め4000万円相当を売り上げた」と日本の中国人相手のツアー業者が言うほどの人気となっていた。8月の団体旅行の解禁で、秋の黄金週における期待はさらに高まっていた。

 しかし、8月末に福島第一原発の処理水の海洋放出が始まると、中国政府は国内向けに激しい反対キャンペーンを展開。日本の水産物輸入を全面的に禁じるなどして「危険性」を強調した結果、予定されていた日本向け団体旅行はキャンセルが相次いだ。これは参加者が自発的にキャンセルしたものもあれば、一方的に「見えない手」によって参加する予定だったツアーがキャンセルされたという例もあったようだ。

 以前、2012年9月の尖閣諸島の国有化によって反日デモが巻き起こった際に、旅行を管轄する政府当局が日本渡航ビザ申請を代行する国内旅行会社に圧力をかけたが、今回も同様のことが起きたらしい。ただ、あれから10年以上がたち、中国人の中にはそんな旅行社を通じて観光ビザを申請しなくても、すでにビジネスビザや個人ビザを取得済みの人たちも多く、政府もそんな彼らを押しとどめることはできなかった。

 実際、団体旅行の需要は減ったものの、日本行きの人気はそれほど下がらなかった。

 ブルームバーグが日本語でまとめた「中国の大型連休、2100万人強が飛行機を利用か―人気旅行先には東京も」という記事によると、「黄金週」初日の9月29日から10月6日までに予約された海外旅行航空券数のランキングでは、トップこそ上海発韓国ソウル便だが、2位が東京発上海便、3位が北京発東京便、4位は杭州発大阪便、5位に再び北京発ソウル便となった後、6位が上海発東京便と、日本と韓国でトップ6位を占拠している。2位の東京発上海便の人気は、国慶節期間中に日本から里帰りした人も多かったということだろう。実際に日本の空港で待ち構えていた日本メディアの問いかけに、到着客が「機内はほぼ満席だった」と答えている姿をご覧になった方もおられるはずだ。