「日本旅行が人気だとあおっている」「誤解を誘導している」
環球時報や北京日報が日本メディアを名指しで批判

 だが、この「事実」が、中国当局関係者の神経を刺激したようだ。

 10月3日、中国共産党中央委員会機関紙「人民日報」傘下のタブロイド紙「環球時報」に、「連休における中国人観光客の人気旅行先が日本だと、日本メディアがあおり立てている」「核汚染水の排出に対する中国の態度を引き合いに、あえて中国人が『忘れっぽい』などと誤解を誘導している」と日本メディアを名指しで批判する、政府系シンクタンク関係者執筆の記事が掲載された。

 これを受けた形で、やはり中国政府直轄のメディア「北京日報」でも、日本メディアの中国人観光客報道を批判する記事が流れた。国慶節の日本旅行人気に対抗して「プチ反日キャンペーン」ということだろうか。だが、そこに「日本メディアが2000万人の中国人が日本にやってくると伝えている」という記述があり、それを読んで筆者もさすがにびっくりした。

 国慶節期間中に2000万人がやってくる?2000万人といえば、日本の総人口の約6分の1に当たる数だ。また、2019年に過去最高となった訪日観光客総数が3188万人であり、わずか1週間ちょっとの国慶節休み中にその3分の2が中国から押し寄せてくるなんて、ポストコロナのリベンジだとしてもさすがに多すぎる。もしそうなれば、日本の観光業はウハウハどころかパンクしてしまうはずである。

 いったいどこの日本メディアがそんなむちゃくちゃな試算をしたのだ?と調べてみたのだが、「北京日報」は「日本メディア」と書いているだけで具体的なソースがない。ならばと、先の「環球時報」記事が名指ししたいくつかのメディアの過去報道を調べてもそんな数字は出てこない。

 そうやってあれやこれやと「2000万人訪日」のソースを求めて調べているうちに、「2000万人なんてでっち上げもいいところだ。日本と中国の間の往復航空便はまだ完全に回復していないし、その状態でどうやったら2000万人も往来できるんだ?」と、やはり日本メディアを非難する中国語記事を発見した。確かにその通りで、1機約600席と仮定しても連休中に3万便以上が飛来する必要がある。たとえ連休を最大の15日間に延長して計算しても、さすがに無理な数字であろう。

「2000万人の中国人が日本に」は
もしかすると中国メディアの誤訳・読み違い?

 ……と、その記事を読み続けていて、前掲のブルームバーグ日本語版記事のタイトル「中国の大型連休、2100万人強が飛行機を利用か――人気旅行先には東京も」(原文ママ)を中国語化するための機械翻訳にかけたらしい画面キャプチャが貼られているのを目にした。その翻訳の結果を日本語に直訳し直すと、「中国の大型連休、2100万人余りが飛行機を利用――人気旅行地東京」になっている。ブルームバーグ日本語版の「東京も」の「も」が抜けている……もしかして、根拠はこれだろうか?

 確かにこの機械翻訳文なら、「2100万人余りが飛行機に乗って人気の東京へ」と読めないこともない(それでも間違っているが)。

 だが、中国共産党北京市委員会の機関紙「北京日報」ともあろうメディアが、米国の通信社ブルームバーグの日本語タイトルを機械翻訳にかけた上で誤読して、「日本メディアがでっち上げ」と大騒ぎするとは……連休中で人手が限られていたのかもしれないが、中国の政府メディアの質もここまで落ちたのか、とさすがにあきれてしまった。

 この反日キャンペーンはその後も、「環球時報」と「北京日報」の記事につられたようにぽろぽろとブログ記事が出ていたが、最終的には国慶節休暇終了とともに終息したらしかった。