米国10年国債利回りは5%台に乗せた。この水準は長期の中立金利に比べて明らかに高い。ゆえに短期の中立金利の上昇がもたらした水準といえる。短期の中立金利低下は米家計の過剰貯蓄が使い果たされることと株価の下落によってもたらされるだろう。(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)
米長期金利5%乗せは
短期自然利子率上昇が理由
7月以降上昇傾向を続ける米国10年債利回りは、ついに5%の大台に乗った。
FRB(米連邦準備制度理事会)がFF(フェデラルファンド)金利を引き上げ、これが5%を上回っている点に鑑みれば、長期金利の5%台乗せは不思議ではないように思われるが、ただ、FRBが考える中立金利(FF金利の長期見通し)は2.7%程度だ。
24年の早々の利下げには否定的なFRBだが、25年以降、FF金利を3%、そして2.7%に向けて引き下げていくとの見通しを示しており、それを前提に「今後10年間のFF金利の平均値」を求めれば、3%台前半と計算される。
つまり、理論的には米国10年債利回りは3%台前半で良いと考えられるのだが、足元の5%とは相当な乖離がある。
長期金利の水準が将来の短期金利に対する期待によって決定するという理論のことを純粋期待仮説というが、その仮説に基づけば、市場は「今後10年間短期金利が5%であり続けること」を織り込んでいるといえ、換言すれば、米国の中立金利が5%であると見なしていることになる。
FRBが考える中立金利と市場が想定する中立金利の間に2%以上の乖離がある格好だが、FRBが考える中立金利は、いわば長期的な中立金利であり、市場が5%と考えているのは短期的な中立金利であろう。
中立金利を自然利子率と言い換えれば、つまり、市場は長期自然利子率を3%以下と見なしながらも短期自然利子率を5%と考えており、短期自然利子率が長期自然利子率に収斂すべく低下するまでは、長期金利が5%水準にあるべきと考えているようだ。
長期自然利子率はおおむねその国の潜在成長率に等しくなるが、米国の人口動態や労働生産性の伸びに鑑みれば、これは上昇しているとは考え難い。
他方、短期自然利子率は潜在成長率に時間選好率を上乗せしたものと考えられ、この時間選好率は環境によって大幅に変動し得る。今回は、時間選好率が大幅に上昇し、短期自然利子率が上がっているものと推察される。
次ページ以降、短期自然利子率の上昇した背景を検証していく。