会議での発言やゼミでの発言レベルでは、対比的には語られないことが一般的でしょう。だからこそ、そこで対比で聞く技術が活かされます。

あらゆる文章は対比で構成されている(『対比思考』より)

 明示されなかったけれど、その発言は何との対比になっているのか、そういう構えで聞くことで発見や発展を導くことが聞く技術です。

あらゆる文章は対比で構成されている

 隠れた対比をくみとることもこれと似ています。ただし、発言で語られなかったものをキャッチできるのは、そのような対比が存在しないのではなく、話者が無意識に前提としていたり、暗黙の了解だったりするからです。

 そうした類推ができたら、「今の発言は〇〇をふまえた(対比させた)ものではありませんか」という問いを発し、応答を重ね、対話を進行させることもできます。

 さらには「その対比をふまえれば、こういうことも言えるのでは」という追加もできます。第3章で見たとおり、対極的対比もあれば、似て非なる対比もあり、中間を行くこともできましたよね。

 形式的な会議でないなら、隠れた前提を明示し、ことばを重ねていくことには意義があるはずです。

優れた論文は、もともと精緻な対比で構築されていますから、ことばが難しくても、抽象度が高くても、主役メッセージと敵役メッセージとの区別、対比によって読解することができます。

 また、実のある講演や講義も、書いた原稿を基にしていることが多いため、対比を追うことができます。対比の軸線を意識することで講演や講義の理解が正確になります。

(本原稿は、『対比思考──最もシンプルで万能な頭の使い方』からの抜粋・編集したものです)