本日のテーマは、「人間関係をアップグレードする“人とのぶつかり”」です。
超ミニマル・ライフとは、「どうでもいいことに注ぐ労力・お金・時間を最小化して、あなたの可能性を最大化する」ための合理的な人生戦略のこと。四角大輔さんの新刊『超ミニマル・ライフ』では、「Live Small, Dream Big──贅沢やムダを省いて超効率化して得る、時間・エネルギー・資金を人生の夢に投資する」ための全技法が書かれてあります。本書より、こじれた関係を吹き飛ばす唯一の方法についてご紹介します。
感情と理性それぞれの衝突の違い
世界的に見て、日本人は「人とぶつかること」を極度に嫌う傾向がある。
欧米と違って、遺恨(いこん)を残さないディベート(議論)の文化がないからだろう。このことからくる「嫌われると仕事に支障をきたす」という考え方に加え──多くの場合「周りと穏便にやらないと居場所がなくなる」という、「村八分」を恐れる日本特有の価値観がベースにある。
確かに、「稚拙な言い合い」や「罵(ののし)り合い」といった感情的な衝突の場合、関係の修復は非常に困難だ。
その時は、なるべく時間を空けずまずは実直に謝罪する。そして頭を下げて時間をもらい、遺恨が残らないよう可能な限り腹を割って語り合うようにする。
理性よりも、感情で動く血の通った人間同士の「すれ違い」の修復作業においては「効率的なハックス」なんて存在しない。
時代が変わろうがAIが普及しようが、「誠実さ」「情熱」「時間をかける」という昔ながらの非効率な手段しか通用しない。
こういった、ただの「感情のぶつかり」ではなく、チームの目標を達成するための理性的な「前向きなぶつかり」は決して悪いことではない。
それどころか、レコード会社のプロデューサー時代にミリオンヒットを創出したチームでは、一つの例外もなく壮絶な「前向きなぶつかり」を経験した。
むしろ、衝突がなく平穏に進んだチームでヒットを出せたことは一度もない。おもしろいことに、たった一度もないのだ。
そして、プロジェクトの理念や方向性、仕事のクオリティといった本質的なテーマで、「前向きにぶつかれる」相手とは固い絆で結ばれたことも多々あった。
そもそも仕事の目的とは、「みんなと仲良くすること」でも「誰からも嫌われないこと」でもない。
プロジェクトチームと社会にとっての「いい結果」を目指して働くことである。この「真の目的」を達成するために──感情ではなく、考え方やアイデアの違いで──衝突せざるを得ない時は堂々とやるべきだ。
ただし、「それは違う」と思ってもまずは相手の主張に耳を傾けよう。まず傾聴から入る──これが絶対ルールだ。
人は話を聞いてもらえるだけで頭がクールダウンするもの──あなたにも経験あるだろう。
そして相手の意見を尊重しながら、冷静かつ理論的に自分の意見を伝えること。何よりも、礼節を持って「前向きな気持ち」で相手と対峙することが大切となる。
こじれた関係を吹き飛ばす唯一の方法
とはいえお互い人間だから、その話し合いの中でヒートアップしたり、険悪な雰囲気になったり、その後も気まずさを引きずることがある。
「今は我慢。チームの全員が感動するほどのヒットにできれば、全ての苦労が報われ、最後にみんなと一緒に泣ける」
そんな時はこう考え、ヒットを目指してさらに邁進した。
「プロジェクトの成功」こそが、ぶつかった相手への真の返礼であり、メンバー全員を幸せにできる唯一の方法だと知っていたからだ。
そうやって共通のゴールを目指し、やるべきことに真摯に従事していると、わだかまりの消えるタイミングが必ずくる。
もし、その「前向きなぶつかり」がブースターとなってヒットにつながったならば、衝突した相手はもちろん、仲間ともその喜びを心から分かち合える。
これこそが仕事における最大の感動である。
それは、学生時代のサークル活動で得られる感動とは、比べものにならないほど壮大だ──筆者は、この感動を得るために働いていると言える。
そうなれば、苦い衝突は「必要な道のり」だったと納得できる。「大いなる目標」に向かう過程で起きた「小さな出来事」だと振り返ることができる。
それは「いい思い出」に昇華し、その相手とは何年経っても、その思い出を肴に盃を交わすことができる──まるで同郷の友のように。個人的には、これこそが最大のギフトだと思っている。
筆者が、大手レコード会社のヒットメーカーという立場を捨ててフリーランスになっても、態度を一切変えなかったのはそういった友たちだった。
孤立を恐れない勇気
逆に言えば、みんな仲良く軋轢(あつれき)なくプロジェクトを遂行できたとしても、成功しなければ誰も幸せになれない。
そして、「誰とも揉めないように」とビクビクしている人は、結局は尊敬されないし大切にされることもない。
「誰とも波風立てず、なんとなく仲良し」で働いていると、全ての人間関係が表面的で薄っぺらいものになってしまい、結局は誰からも愛されなくなってしまう。
だってそうだろう。いつも周囲の顔色を窺い、常に忖度して、自分の意見を明確にしない人──つまり「本心が全くわからない人物」に対して誰が心を開くだろう、誰が信頼してくれるだろう?
まさに社会人になってからの筆者がそうだった。そんな自分が日に日に嫌いになっていく上に、仕事でも結果が出ない。
だが転機が訪れる──伝説のヒットメーカーと呼ばれる先輩が率いるチームに異動になったのだ。
彼は、本音を隠さず話しては場を凍りつかせ、予定調和を嫌い、決まり事をよく覆(くつがえ)していた。最初は「なんて人だ」と呆れていたが、だんだん影響を受けるようになっていく。
「これだ!」と確信すると空気を読まず熱狂する。非常識なアイデアや、前例のない企画への挑戦を恐れない──筆者はいつの間にか、人の目や既定路線に縛られず働いていた。「危ういヤツ」と社内で浮いた存在となり、警戒されるようになる。
不思議なことに、ヒットを出せるようになったのはその頃から。そんな筆者を苦手に思ったり嫌った人もたくさんいたし、社内にも社外にも友達は少なかった。
八方美人マインドを手放す
孤独に苦しんだ時期は長く、辛いことも多かった。それでも、あの時以来ずっと「いびつな自分のまま」で歩んできた20年以上のビジネスキャリアに後悔はない。
組織で揉まれ、人間関係に苦労しながらも、この年齢までなんとかやってこれたし、他人の評価とは関係なく自分に対して胸を張れる仕事もいくつかやり遂げられた。
そして何より──「前向きなぶつかり」を経て絆ができた友たちが、その後の人生を支えてくれているからだ。
「社会に出ると友達ができなくなる。今のうちにつくっておけ」
学生時代の先輩によく言われたが、決してそんなことはないと今なら言える。有名な言葉「100人の友より、1人の親友」は、間違いなく真理だと思う。
だから、「安心してほしい」と声を大にして言いたい。
自分の本気を声にすることを恐れないでほしい。信念に従って行動する勇気を持ってほしい。
全員とわかり合うなんてのは幻想で、みんなとうまくやれる日なんて一生来ない。もしあなたが、誰からも愛されない、誰も愛せない「八方美人」になっているならば、今すぐやめよう。
それを手放せた瞬間から、今まで何だったのかというくらい生きるのが楽になる。
すると、「誰にも嫌われたくない」という不安から解放され、本来のあなたを取り戻すことができる。そして「本当に大切にすべき人」が明確になっていく。
そうやって人は初めて、「みんな」じゃない「一人の人間」から深く愛されるようになるのだ。
(本記事は、『超ミニマル・ライフ』より、一部を抜粋・編集したものです)