元は取れる?
「30分飲み放題」の甘い誘惑

 オトクさをくすぐる「飲み放題・食べ放題」の文字。時間制の場合2時間が一般的だが、最近目にするのが、30分飲み放題で300円や500円というプラン。2時間飲み放題だと1000円、1500円ほどかかるので、数百円という激安価格とみるとつい安い!と浮足立ちそうだ。さて、これはオトクと言えるのだろうか?

 お酒を飲むペースは人それぞれとはいえ、飲み会開始から30分というのはあっという間に過ぎる。ペースが速い人でも、周囲と会話しながら30分で3杯以上飲めるかどうか。飲めたとしても、30分間ひたすらお代わりし続けるというのも、なんとも味気ない。

 開始30分で会食が終わるはずはないので、そのあとは通常料金で追加のアルコールを注文するか、さらに30分の延長ということになる。すると、なんだかんだと1000円近い支払いになり、通常の飲み放題とさほど金額が変わらなくなってしまうだろう。最初に提示された数百円という金額は、いわゆる客寄せの数字というわけだ。

 そもそも飲み放題や食べ放題は、店側が損しないように設定されているもの。元を取ろうということばかり意識すると、会食自体よりそっちが目的になってしまう。時間ばかり気になって、ゆっくり食事や会話を楽しむこともできないのは本末転倒。

 懸命にお代わりを繰り返して節約できたとして、それが豊かな時間の過ごし方だったかは別の話だろう。

 言わずもがな、価格に記された数字は「高い・安い」を判断する基準となる。私たちはその数字から、お買い得かそうでもないかをジャッジしているつもりになっているが、実はそうでもない。

 例えば高級時計店のウインドーに100万円もするラグジュアリーな時計が並んでいたとする。それを見た後で、70万円の値札が付いた時計を見ると「こっちは安いな」と感じてしまうもの。

 最初に見た100万円という数字が「基準」となり、価格の錯覚を引き起こすからだ。最初から70万円の価格を見ていれば、こちらも相当高額な品だと感じたはずなのに。

 こうした錯覚を利用した価格のトラップはいくらでもある。「安いな」と感じた時こそ、すぐに財布を取り出さず、それが妥当な数字なのかいったん立ち止まって見極めるようにしたい。