水も食料もない「極限状態」のガザの人たち、ハマスの攻撃をどういう思いで見ているのか土井敏邦(どい・としくに、左):1985年から三十数年間、パレスチナ・イスラエルを現地取材。主な映像作品に「ガザに生きる」(5部作)、「沈黙を破る」「愛国の告白」。著書に『「和平合意」とパレスチナ』『アメリカのユダヤ人』など/錦田愛子(にしきだ・あいこ):慶應大学法学部教授。専門はパレスチナ・イスラエルを中心とした中東地域研究、移民・難民研究。共著に『教養としての中東政治』、編著に『政治主体としての移民/難民』などがある(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

民衆とハマスとの関係

土井:ずっと気になっていることがあるんです。メディアや研究者の方たちには、ガザの民衆とハマスとの関係、つまり彼らが「本当のところハマスをどう思っているか」について、よく見えていないのではないかと。

 いま私はガザ取材のコーディネーターと断続的に連絡を取り合っています。ジャーナリストであり作家の彼は、ガザ中部のデルバラという町に家族と住んでいる。10月24日に聞いた現地の状況はひどいものでした。まず、水がない。隣人のみかん畑の灌漑用水を煮沸して飲んでいる。10月7日から一度もシャワーを浴びられず、小麦粉がないのでパンも作れない。夜中の爆撃音で子どもが泣くので2、3時間しか眠れない。31日には、状況はさらに悪化していました。こういう状況にある人が、ハマスの攻撃をどういう思いで見ているか。

錦田:民衆とハマスは完全に分断された存在とお考えですか。

土井:私のコーディネーターは旧ツイッター(X)とフェイスブックで民衆の声をモニタリングしていますが、最初の奇襲攻撃直後は民衆の多くは溜飲を下げ、ハマスの攻撃を支持した。でも2日後くらいから空気が変わってきました。

 原因はイスラエルによるすさまじい報復です。決定的な転換期は10月17日のアル・アハリ病院への攻撃。ガザ住民の9割は「イスラエルによる攻撃」と考えている。パレスチナ側のロケット弾であれほど大きな爆発が起こるはずがないと。そして目の前で500人近いパレスチナ人の女性や子どもが血まみれで殺されているのを見る。「なぜこんなことが起こるんだ?」と。

 人々が何に怒りを持っているか。イスラエルに対してはもちろんです。でももう一つは、この攻撃の原因を作り民衆の苦難を顧みないハマスですよ。

錦田:今回の戦闘でこれまでと大きく違う点があります。封鎖のレベルです。これまでもガザは外部と遮断されていました。でも1カ月にわたって水も食料もほとんど入ってこない、電気も使えないという「完全な遮断」は、今回が初めてです。

 ここまで極限状態に置かれると、ガザの人たちの怒りの矛先がふだんはイスラエル軍に向きがちでも、だんだん「そもそもどうしてこんなことになったんだ」とハマスを責める方向に変わっていく。その可能性もあるのではと私も思います。

(構成/編集部・小長光哲郎)

AERA 2023年11月20日号より抜粋

AERA dot.より転載