酒井真弓のDX最前線写真はイメージです Photo:PIXTA

大日本印刷(DNP)は、多業種との共創で生成AIの可能性を探る「DNP生成AIラボ・東京」を12月4日に開設すると発表した。先立って10月に組織された「生成AIラボ」は、1年の時限付きプロジェクトで1000件のユースケース創出を目指す。今年5月にはグループ社員3万人に生成AIの利用環境を提供し、社内コミュニティーや勉強会を通じて浸透を図ってきた同社。自社に閉じず共創を進める背景には、アメリカで生成AI関連30社と議論する中で痛感した、圧倒的なレベルの差があった。(ノンフィクションライター 酒井真弓)

アメリカで見せつけられた、生成AI活用の圧倒的なレベルの違い

 今年8月、生成AIラボのリーダー 和田剛さんは、アメリカにいた。MicrosoftやGoogleといった生成AIを提供する企業、活用して商用サービス化している企業、それらに投資するベンチャーキャピタルなど、30社以上のエグゼクティブと意見交換するためだ。

生成AIラボのリーダー 和田剛さん生成AIラボのリーダー 和田剛さん。DNPの初代CCoE(Cloud Center of Excellence)リーダーでもある Photo by Mayumi Sakai

 実感したのは、生成AIとの向き合い方の違いだった。日本の場合、発展途中の精度や情報漏えいの恐れなど、生成AIの負の側面に注目が集まりがちだ。DNPは、日本マイクロソフトが提供するAzure OpenAI Service上でChatGPTを利用することで、データを社内にとどめ、セキュリティーを担保しているのだが、リスクを重く見て生成AIの利用を一切禁じる企業もある。

 一方アメリカは、「とにかく使ってみよう」。精度は後からついてくる。未知数でもわれ先に、業務や商用サービスへ組み込んでいく勢いがあった。

 和田さんが、「日本語対応が進めば、日本企業も生成AIをさらに活用しやすくなるだろう」と伝えると、「英語で使って日本語に翻訳すればいいじゃない。いい翻訳サービスならすでにたくさんある。なぜやらないの?」と逆に質問されてしまった。それに英語の次は日本語ではないと言う。「私たちは世界中からリクエストをいただいています。普通に考えたらスペイン語対応が先ですね」。

 ベンチャーキャピタルの言葉に、和田さんは「早く動け」と強く背中を押された気がした。

「生成AIスタートアップの技術動向資料を見せてもらったんです。資料は大事な商売道具だろうに本当に持ち帰ってもいいのかと聞くと、『どうぞ、2週間後には何の価値もなくなる資料ですから』――すごい衝撃でした。技術は2週間で過去のものになる。だからこそユースケースに価値があり、アイデアをすぐ形にできるチームが必要なんだと」(和田さん)