「経験の貯金」は一年後に大きな差がつく

――中原ゼミの学生は、どのような進路を選んでいるのでしょうか?

 コンサルタントやIT企業を目指す学生が多くなってきています。働き方がフレキシブルで、リモートワークにも柔軟に対応していて働きやすい。

 そしてなによりも、「貢献しがいのある仕事」を求めますね。社内には「一緒に働いていて、気持ちのいい人たち」がいる環境が重要です。

 お互いに高めあっていけるような人たちがいる点に魅力を感じる学生が多いようです。

 「何を仕事とするか」も重要ですが、「誰と一緒に働くか」は、とても重要なファクターです。

――学生は企業の魅力をどこで判断していると思われますか?

 仕事が面白いか面白くないか、というシンプルなことでしょうか。

 あとは、卒業して1、2年が経ち、同窓会などがあった時に、会社によって渡されている仕事の量とそれに対するフィードバックが違うことに気がつきます。

 そうすると、不安を感じる人が出てくる。極端にいうと、コンサル会社でバリバリやっている人は「デューデリやってます」、ITの人は「最新のWEBマーケティングをやってます」などと言う。

 一方、大企業ではあるけど、成熟し尽くしている企業に勤めている人は、任されている仕事の狭さや、やりがいに悩む。

 環境によって渡されている仕事も成長の度合いも大きく異なるわけです。これは企業の「育成力」の差と言えます。

 次から次に新しい仕事を渡されて、それをこなして、フィードバックされる環境と、そうではない環境での差は大きい。

 1年経つと、1.01の365乗か、0.99の365乗かという違いで、ものすごい差になる。日々の貯金みたいなものですよね。1.01の365乗は37.8です。逆に0.99になると、0.99の365乗は 0.03ですから。

 「経験の貯金」の差は1年経ったら大きくなるし、複利方式でどんどん大きく増えていきます。

新人をケアできないほど忙しい指導係

――社員の「経験の貯金」が増えない企業にはどんな特徴があるのでしょうか?

 もちろんあえて「この新人を成長させない」などと思っているわけではなくて、まずマネジャーもOJT指導員も忙しすぎて、新人をケアできないということがあるでしょう。フィードバックの少ない組織では、人は育ちません。

 あとは、リスクを取れるかどうかではないでしょうか。結局、人を育てるときは、「ちょっとこいつには危なっかしいな」という仕事を相手に渡してフィードバックしないと、成長しません。

 マネジャーからすると、すごいリスクです。新人が失敗するかもしれない。そのリスクが取れないから、確実にこなせる仕事をさせることが多いわけです。

 そうなると、「経験の貯金」は貯まっていきません。

――それは若手が「成長実感」を得られない、ということにもつながりそうです。

 そうなります。

 自分が今持っている能力よりも少し難しい仕事に挑戦できて、誰かにサポートされて、成し遂げる。その繰り返しで、人は成長するものなのではないでしょうか。

(取材・文 間杉俊彦)