ガソリン価格が表示された看板写真はイメージです Photo:PIXTA

ガソリン価格の引き下げにつながるトリガー条項の凍結解除(発動)について、11月24日、自民党と野党・国民民主党の政調会長会談が初めて行われた。岸田首相は従来の姿勢を一転し、トリガー条項の発動にかじを切ったわけだが、いったい誰のために事態は急転しているのだろうか?(桃山学院大学経営学部教授 小嶌正稔)

正常な市場機能をゆがめた
岸田首相の「175円」発言

 時計の針を巻き戻すこと2023年8月30日、岸田文雄首相は「燃料油価格激変緩和対策」(いわゆるガソリン補助金)の見直しについて、「全国平均175円程度の水準の実現と、国際エネルギー価格の動向を注視しながら、必要な対応を機動的に講じる」とした。そして、ガソリン補助金は、24年春まで延長される見込みである。

 しかし、ハッキリ言おう。一国の首相が小売価格について具体的に言及することは、自由市場経済を完全に無視し、市場取引による公正な取引を根本的に揺るがすことだ。

 戦前の石油業法においても、商工大臣が石油価格の変更を命じることができる規定はあったが、小売価格を裁定して指定する権限はなかった。また、戦後の混乱期の配給期間と、1970年代のオイルショック時には生活必需品であった家庭用灯油を除けば、小売価格を政府が明言することもなかった。オイルショック時の狂乱物価では、油種別に値上げ幅の上限のガイドラインを出したが、これは卸売価格であり小売価格ではなかった。

 それでは、この175円程度という価格は、いったいどのような「動向の注視」から出てきたのであろうか。

 図表1は、原油価格(米ドル/バレル)と円相場(米ドル/円)にガソリン税、石油石炭税、石油精製・元売り(いわゆる大手石油会社)のコストや営業利益、流通小売りマージンなどを加えた小売価格の想定である。

 ブルーグレーの色部分が想定価格の175円未満だが、これを実現するには円相場が140円の時には原油価格は70ドルを割り込む必要があり、一方で原油価格が80ドルの場合には円相場115円まで円高になる必要がある。

 11月24日時点の、中東ドバイ原油のスポット価格は83.8ドル、円相場は149.5円。これのどこが、「国際エネルギー価格の動向を注視しながら」になるのだろう? 円相場が115円程度だったのは、22年3月が最後。その後はずっと円安が進行している。22年1月に始まったガソリン補助金は、23年9月末までに6兆2000億円もの予算を使った。要するに、ガソリン補助金はもう、“支離滅裂”なのだ。