4つ目の理由は「IPOの小ささ」だ。「日本ではシリーズC〜Dラウンドでの上場もあります。一方、米国では上場まで7〜10年かかることもあると思いますが、(ストックオプションの権利行使のために)7〜10年も在籍し続けることは現実的ではありません」(土岐氏)

だが、日本でもベンチャーキャピタルのファンドサイズは拡大し、海外投資家・機関投資家の存在感も増してきている。そのため、スタートアップはより長期間、未上場のまま拡大することも可能になってきた。

「SmartHRのように、上場前に大型化(編集部注:時価総額は1700億円規模(STARTUP DB調べ))するスタートアップも出てきました。そのため、日本(のストックオプション制度)も今後、米国形式になっていくのではないでしょうか」(土岐氏)

「信託型ストックオプション」を導入するスタートアップが増加

日本では、発行時(信託設立時)の行使価額で権利行使できる“信託型ストックオプション”を導入するスタートアップが増えてきた。前述のSmartHRもその1社だ。同社は2017年に信託ストックオプションを活用したインセンティブ制度を導入した。

同社が取り入れていた制度では、信託時点の株価をベースとした行使価格の新株予約権を配布する。そのため、例えばこの先に採用する従業員に対しても、初期に入社した従業員と同価値のストックオプションを付与することができる。よって、入社時期に捉われず、実際の事業貢献に応じて従業員を報いることが可能だ。なおSmartHRでは、現在は成果給の制度を導入しており、信託型ストックオプション制度の対象となるのは2020年9月以前に入社した社員に限定される。

すでに信託型ストックオプションを採用して上場したスタートアップも複数いる。以下はその一例だ。

従業員へのインセンティブとしてストックオプションを導入する企業が増える中、さらにもう一歩踏み込んだ制度を導入するスタートアップも出てきた。退職後もストックオプションの権利を保有し行使することができる新制度を導入したカウシェだ。

スタートアップを「より多くの人の選択肢」に

カウシェは2020年4月設立のスタートアップだ。同年9月より、家族や友人との共同購入でお得に買い物ができる“シェア買い”アプリの「カウシェ」を展開している。

同社は2021年11月、デライト・ベンチャーズをリード投資家とした8億1000万円の資金調達を発表。それと併せて、新たに信託型ストックオプションの導入を発表した。

カウシェが運用するストックオプションは、3年以上在籍し、事業成長に貢献した役員と正社員(業種や役職は問わない)を対象としたもの。原則として、上場前に雇用契約が終了した場合でも、ストックオプションを保有し続けることができる。ただし、上場から6カ月以上が経過することなどが行使条件としてある。