つまり「事業者間でのデータ流通の構造がアップデートされてこなかった」ことによって生じた課題を解決するための手段として、各プレーヤーのestie proへのニーズが高まったわけだ。

膨大なデータを集約し「これだけ見ておけば大丈夫」を実現

estie proの特徴は「データの網羅性と継続性にある」と平井氏は話す。

同サービスでは全国8万棟・40万フロアの建物情報、500万坪の募集情報、24万件の賃料情報、都⼼20万件の⼊居企業情報などをカバーしており、日々更新されていくそれらのデータに「ブラウザを開けばすぐにアクセスできる」環境を整えた。

estie proが扱う情報の中には“ウェブ上で検索するだけでは手に入らない”データも多い。たとえば住居用の賃貸物件と異なり、オフィスビルは賃料が公開されていないことも珍しくない。平井氏によると、都心のオフィスビルの場合、ウェブで賃料が開示されているのは10%ほど。一方でestie proであれば70%ほどの物件の賃料情報がわかるという。

現在の賃料だけでなく賃料の推移などを調べることも可能
現在の賃料だけでなく賃料の推移などを調べることも可能

これを可能にしているのがestieが構築してきた業界でのネットワークだ。

不動産デベロッパーや管理会社、仲介会社を含む50以上のパイプラインを築き上げ、データ連携などによって日々情報が集まってくる仕組みを作った。また過去のデータしかない物件に関しても、独自のアルゴリズムで賃料を推定する機能を開発している。

そのためユーザーは「今までは関係者にアポをとって電話や対面でヒアリングをしたり、大量に送られてきたPDFを整理しないとわからなかった情報」にもestie proを使えばすぐにたどり着ける。

「オフィス不動産業界においては『これさえ見ておけば大丈夫』というオールインワンパッケージになっています」(平井氏)

estie proの利用料金は月額数十万円から数百万ほど。利用規模やデータ提供の度合いによっても料金が変わる。自社が保有するデータを提供することでestie proをより安価に使えるため、estieにデータが集まってきやすい構造になっているのもポイントだ。

網羅的なデジタルデータがないため「隣のビルの賃料がいくらか」といったことを事業者が知らないことも少なくないそう。estie proでは複数物件の情報にすぐにアクセスできるのが特徴だ
網羅的なデジタルデータがないため「隣のビルの賃料がいくらか」といったことを事業者が知らないことも少なくないそう。estie proでは複数物件の情報にすぐにアクセスできるのが特徴だ

既存事業が拡大する中で、estieでは今後サービスの幅を拡張しながら「マルチプロダクト戦略」を推し進めていく方針。今回調達した資金もそのための採用強化が大きな目的で、現在は約30人のチームを2022年内に80人規模まで拡大する計画だという。

海外では、オフィスに限らず商業用不動産領域で幅広く事業を展開するCoStarグループの時価総額が3兆円を超える。平井氏自身、三菱地所時代から同社の存在を知っていて「CoStarのような企業がなぜ日本にはないのか」と考えたことが、この領域で起業を考える1つのきっかけにもなった。