功を奏したリブランディング

実質、数百円で仕入れたパソコンが数万円で飛ぶように売れていく。青山は経営者として大きな手ごたえを掴んでいたが、足元に開いた落とし穴には気づいていなかった。

2019年の冬、ふたりの外国人スタッフが「会社を辞めて母国に帰る」と言ってきたのだ。振り返れば、日本語がうまく話せないふたりは、ほかに誰もいないオフィスで毎日、毎日、パソコンの修理をしていた。

前述した通り、日本で難民認定される可能性はとても低い。生活も、心理的にも不安定な状態が続くことに限界を感じ、「自分の人生を生きたい」と帰国を決めたのだ。母国に帰れば危険が待っているかもしれない。それでも帰国するというふたりの重い決断に、青山は責任を痛感し、うなだれるしかなかった。

落ちるところまで落ち込んだ後、徹底的に反省した。難民申請者は孤独だ。頼れる身内はおらず、母国語で話せる相手も少ない。彼ら、彼女らに手を差し伸べるのであれば、もっとしっかり寄り添うべきだった──そう考えた青山は、新たにEC部門を立ち上げた。今度はECモールではなく、自社ホームページでの直販にした。

「オフィスにいながらしっかりと売り上げ立てられる方法を見つけたら、状況を改善できるんじゃないかと思ったんです。オフィスにいながら販売ができれば、ランチを一緒に食べたり、コミュニケーションを取りながら仕事ができるので」

NPOを通して、再び難民申請者がふたり加わった。しかし、ECはそううまくはいかなかった。商店街やショッピングモールでは「新品と比べて安い」という理由で売れたが、オンライン上には、安い中古パソコンが溢れている。ショッピングモールや催事に来る客とは異なるターゲットに「ecoパソコン」の情報を届けるためにどうしたらいいのか?

ここで青山は、難民申請者の支援という社会貢献性と、使われないまま眠っている膨大な数のパソコンを再生することによる環境への貢献性をまっすぐにアピールすることを決心。2020年7月、ホームページなども一新し、エシカルパソコン「ZERO PC」としてリブランディングした。

この決断が、強烈な追い風となった。コロナ禍でリモートワークや学生の自宅学習が一気に増加した2020年、国内のパソコン出荷台数は1591万台と過去最高を記録した(MM総研調べ)。当然、中古パソコン市場も活況を呈したなかで、他社とは一線を画すコンセプトによって注目を集めたのだ。

「難民申請者100人雇用」へ

パソコンを引き取ってほしいという依頼が急増すると同時に、「ZERO PC」の注文も一気に伸びた。3万2780円から6万5780円まで4種類の中古パソコンを売る同社の現在の売り上げは1億円。社員8人のうち、難民申請者は4人になった。事業の幅も広がり、回収したパソコンのうち3割は中古パソコンとして再生、5割はアフリカへの輸出、起業当初の部品の販売は2割になっている。