スタートアップの資金調達で活用したい「種類株式」とは
増資による資金調達においては、「普通株式」のほかに、さまざまな権利を付与(制限)した「種類株式」を発行することができる。エクイティファイナンスを成功させるためには、種類株式の活用が有効な手段とされている。
- 普通株式:株主の権利に制限なし。株式市場で売買される株式は原則として普通株式
- 種類株式:一定の事項に関する株主の権利を優先、または制限した株式
会社法上の規定で種類株式に設定できる事項は以下の9種類だ。
![種類株式に設定できる事項](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/f/a/-/img_faf741bae371f5597733bd9de9efdcec323441.jpg)
会社の定款に定めることのできる種類株式の権利は会社法の規定で決まっているが、それ以外にも投資契約や株主間契約で権利を直接、または間接的に制限・優遇することも可能だ。
特にスタートアップの資金調達においては、剰余金配当や残余財産分配の優先株式設定を用いることが多い。種類株式は普通株式と区別するために「A種株式(A種優先株式)」「B種株式(B種優先株式)」……などと呼ばれ、それぞれにどのような権利が付与され、制限されているかは、定款や投資契約書で規定される。
種類株式を活用することで、スタートアップは経営への関与度を維持したり、意図しない株主へ対応したりすることが可能となる。また逆に、出資者に経済的利益やガバナンスに対する権利を与えることで株式の魅力を高めたり、株式の流動性を高めることで投資家の出資に対するハードルを下げたりすることもできる。
日本でも活用進むJ-KISSなどのコンバーティブルエクイティ
エクイティファイナンスの一種(エクイティファイナンスとデットファイナンスの中間的な資金調達の手段)として、新株予約権や新株予約権付債権といった「コンバーティブル投資手段(コンバーティブルエクイティ)」が活用されるケースも増えている。
コンバーティブル投資手段では、スタートアップが新株予約権等を発行し、投資家がこれを有償で引き受けることで投資が実行される。投資家は将来、企業価値評価の正確性が高まったタイミングで株式転換を行う。資金供給時には株式への転換価額を決めず、価額決定の計算式のみを事前に定めるスタイルが一般的だ。コンバーティブル投資手段の長所は、企業価値評価の先延ばしができ、簡素な調達手続きにより迅速なファイナンスが可能な点、株式転換の条件を自由に設計でき、柔軟なインセンティブ設計ができる点が挙げられる。
コンバーティブル投資手段は、米国シリコンバレーでは立ち上げ初期のスタートアップの資金調達方法として以前から活用されており、日本でもVCやエンジェル投資家からスタートアップへの投資で活用され始めている。投資契約書のひな形として「J-KISS(日本版KISS(Keep It Simple Security))」が無償公開されているため、「J-KISS型新株予約権」による調達などと呼ばれることもある。