生産性という意味では、4時間もかけて講演に直接関係のない論文にあたるというのは無駄なことのように思えますし、それで報酬がアップするわけでもありません。しかし私にとっては、その時間があったからこそ、講演を準備して登壇するというプロジェクト全体が、大変楽しいものとなったのです。
私たちの仕事は、「完全にルーティンしかないもの」を除いて、細かく見ていくと動機を持てる箇所がどこかにあります。私の例で言えば講演を言われたとおりにやるだけであれば、外発的動機寄りのモチベーションしか喚起されず、「やらないと講演料がもらえないから、がんばろうか」というところで終わったかもしれません。ところが、自分らしいやり方を見つけ、少し脱線してでも夢中になる時間を取ったことで、モチベーションが上がり、「また次も講演を引き受けようかな」と思うまでに至っています。
「お金が欲しいからやっているわけではない」ということの裏側にあるのは、こういう背景です。もちろん、お金がもらえなければ仕事として成立しないので、外発的動機付けもなければいけません。ただ、そのうえに自分なりの動機を見つける余地があり、見つけ方を知っていれば、人は内発的なモチベーションも持てるのです。
仕事のやり方を箸の上げ下ろしに至るまで指摘するようなマイクロマネジメントでは、内発的動機付けをむしろ殺してしまうと言いますが、それもこうした背景から来ているのだと思います。
やる気を上げるには「やり始める」「動機を伝染させる」のが有効
ここまでは、モチベーション、動機付けとは何かを学術的に整理して見てきました。しかし私たちが仕事をするときには「急いでやらなければならない」「誰かがどうしてもやらなければいけない、やらされる仕事だってある」ということも、実際にはあります。そんなときに、どうやってモチベーションを維持・向上すればよいのでしょうか。その方法を2つほどご紹介したいと思います。
まず1つ目は、脳科学的にわかっていることなのですが、「やり始めなければ、やる気は出ない」ということ。「ブツブツ言っていないでやりなさい」なんて、ちょっと精神論、根性論的なアドバイスのようですが、これには一定の科学的な裏付けがあります。
やりはじめないとやる気は出ません。
脳の側坐核が活動するとやる気が出るのですが、
側坐核は、何かをやりはじめないと活動しないので。脳研究者・池谷裕二さん ほぼ日刊イトイ新聞より
やっていれば乗ってくる。だから勉強したくないな、仕事したくないなと思っても、まずはちゃんと机に座って教科書を広げてみる、パソコンを開いてみる、ということはやった方がいいらしいのです。
もう1つは、組織の中では「内発的動機はうつる、伝播する」ということです。