数年前であれば「年間経常収益(ARR)100億円」がSaaSスタートアップにとっての大台と言われていたが、2022年末の段階では7社がその水準に到達。Sansanやラクスのように200億円を突破する企業も出てきた。

早船氏によると2021年の調査では「100億円超えが4社、200億円超えはなし」だったことからも、上位のSaaS企業が事業規模を拡大していることがわかる。

その背景にあるのが「複数プロダクトの仕込みと代理店戦略」(岩澤氏)だ。主軸となるプロダクトを持ちつつ、隣接領域へと事業を拡張している企業が目立つ。

Sansanは2020年5月に立ち上げたインボイス管理システム「Bill One」が好調で、2022年11月時点で単体のARRが20億円を超える規模に成長している。

「楽楽」シリーズを展開するラクスもARRが10億円を超える規模のプロダクトを複数保有。近年はfreeeやマネーフォワードのような成長SaaS企業が、M&Aを実施しながら事業を多角化する動きも出てきた。

また「SaaSの売り方」が変わってきている側面もある。“直販”に固執せず、代理店と連携することで顧客層を広げようとする企業が増えてきた。

「Zoomですら売上におけるパートナー比率が60%を占めていると言われています。パートナーの相手も(ITベンダーなど)従来型の代理店に限らず、通信会社や金融機関などに広がってきているのが特徴です。(代理店側が)既存顧客のデジタル化を支援するソリューションとして、SaaSを扱い始める例が増えてきています」(早船氏)

例えば東京のSaaS企業が、自分たちの力だけで地方の中小企業との接点を広げていくのは簡単ではない。豊富なネットワークを持つ代理店と組みながら「(接点のない)マジョリティ層へどのようにサービスを届けていくか」に目線が向いてきているという。

「2022年はSaaSがキャズムを超え始めた1年になった。スタートアップやIT企業といったアーリーアダプターから、大手企業や中小企業、地方企業などのアーリーマジョリティー、レイトマジョリティーの層に広がり始めている実感があります」(岩澤氏)

SaaSの広がりや代理店との取り組みの拡大は、関連するビジネスの登場からも伺える。“社内で増え続けるSaaS”を効率的に管理するためのサービスが日本でも増加。代理店との連携を後押しするSaaSも登場している。