冬の時代と言われるゆえんは「バリュエーション」

一方で「バリュエーション」については明確に影響があった。SaaSが冬の時代と言われるのも、この部分が大きい。

国内の上場SaaS企業は世界的な新興株安の影響を受けて株価が下落。新たに上場する企業でも「公募割れ」するケースが出てきた。SaaSに限った話ではないものの、2022年にはスタートアップの上場延期の発表も見られた。

そのような状況下において「SaaS企業が買われるM&A」が増えている。

2021年は拡大中のSaaS企業が隣接領域のスタートアップを買収する動きが加速したが、2022年はバリエーション水準が低下する中で、今後の成長への打ち手としてSaaS企業が事業会社などのグループに入る動きが増えた。

2022年の国内SaaS企業における主要なM&A
2022年の国内SaaS企業における主要なM&A

M&Aという観点では「買い手(M&A先)の多様化が進む」というのが岩澤氏の見立てだ。

米国では「2021年時点でVCが保有するスタートアップの株式をエグジットする先として、PEファンドが20%を占める」という調査結果が出ている。この割合はここ数年で増してきており、日本でも同様の動きが広がる可能性があるという。

「カーライルによるユーザベースの買収が1つのターニングポイントになるのではないかと考えています。今後『上場したものの単一プロダクトで成長限界に達してしまい、成長が鈍化して市場から評価されにくくなっているSaaS企業』や、『未上場のまま拡大を続けているが、ファンドの期限の関係でVC側が売却する必要があるスタートアップ』も出てくる。そこで(M&A先や株式の引き継ぎ先として)PEファンドが出てくるのではないかと予想しています」(岩澤氏)

実際に岩澤氏のもとには、直近数カ月の間だけでもそのような動きを見据えた国内外の複数のPEファンドの担当者から、問い合わせやヒアリングの依頼が届いているという。

SaaS企業は「大排気量型経営」から「燃費重視型」へ

バリュエーションの水準が低下した中でも、SaaSスタートアップの資金調達総額は前年に比べて増加している。ただし「調達した社数」は減っており、「1社当たりの調達金額」が高くなった構図だ。

2022年にはLegalOn Technologies(旧LegalForce)やアンドパッドなど3桁億円規模の大型調達も目立った。

国内SaaSスタートアップ資金調達総額と調達社数の推移
国内SaaSスタートアップ資金調達総額と調達社数の推移

岩澤氏や早船氏によると、未上場SaaS企業の評価において重要視される指標も変化してきている。特に「どれだけ効率よく新規顧客やARRを獲得できているのか」を指す「バーンマルチプル」が活用されるケースが増えているという。