「それが入社後に社員の話を聞きながら、より細かい数字を見ていると、いろいろな切り口から改善案を思いついたんです。まさにメタボなところと栄養失調なところが、さまざまなファクトからあぶり出てきた。それは社外からはわからないし、デューデリジェンスの段階で発見できたかというと、おそらく難しかったと思います」(石井氏)
石井氏にとって、エキサイトが綿密に管理会計をしていたことも嬉しい誤算だった。もともと伊藤忠の子会社ということもあり、プロダクトごとに損益計算書が作られ、各事業の実態をつかみやすい状態になっていた。
「(ゼロベースだと)把握するだけでも1カ月単位の時間がかかることが、3〜4日程度でできた」ことにより、最初の1週間ほどで「コストの見直しができる部分と、栄養を投下することで伸びしろのある部分」の見極めができたという。
4期連続の赤字体質からの脱却
急ピッチで企業の体質改善を進めた結果、2019年3月期まで4期連続で営業赤字だったエキサイトは4カ月で黒字化を達成。2020年3月期は通期で3.6億円の営業利益を出した。
この期間については何か特別な手法を使ったわけではなく、スタンダードなことを「とにかく矢継ぎ早に実行していった」(石井氏)という。
具体的にはまず、上述したコストの削減から着手した。社内に十分な人員がいるにも関わらず、外部に委託することで大きなコストが発生している部分は適正化した。共同事業のレベニューシェアの比率においても、業界の標準的な相場と比べて「還元しすぎている」部分があったため、条件を見直している。
サービスについても選択と集中を進め、成長が見込めない事業や子会社については閉鎖や清算の決定をすることで余計な脂肪を削いでいった。
コスト削減と並行して取り組んだのが「人的資本経営」の観点からの人事制度や体制の変更だ。もともと業務が必要以上に細かく分けられ、1人1人の守備範囲が狭くなっていたところにテコ入れし、裁量を与えながら各メンバーが能力を発揮できるように配置を見直した。
「評価制度の変更」もその一環だ。それまでは総合商社のように、終身雇用を前提とし、長く働く中で経験を積みながら少しずつステップアップができるようなかたちで評価制度が作られていた。昇給のグレードも細かく、60段階ほどに分けられていたという。
「変化が激しく、どんどん事業環境も変わるIT業界とは合わない部分がありました。たとえばGenerative AI(生成AI)をとっても、ベテラン社員よりも1年目のメンバーの方が詳しく、うまく使いこなしていたりします。以前の制度では有望な若手に良い評価を与えても、たった数千円ほどの昇給にしかならず、査定も年に1回のみでした。現在はその回数を年2回に増やし、1回の評価でダイナミックに給与が上がるように変えています」(西條氏)