一方で、卒業後まもなくスタートアップを立ち上げるような人はごくまれです。そういう人は、モラトリアムの延長という感覚では進路を選んでおらず、自身の原体験に根付いた解像度の高いビジョンを持っていることが多い。学生起業をした後輩もいますが、ある種の人生の先輩として純粋に尊敬します。

かつてYouTubeのキャッチコピーに「好きなことで、生きていく」というものがありました。それはそれで間違っていませんし、時代を言い得た言葉だと思うのですが、今求められているのは、「好きなことと社会性のバランス」だと思っています。

今求められているのは、自分一人で成長することではなく、将来世代や環境や社会をはじめ誰も置いて行かない成長すること。自分の「好き」と社会を前に進めていくためのバランスが求められていると思います。「就社」をしなくても生きていける選択肢のある時代になって、そういうことに憧れる方々は増えてきているように感じます。

「異なる価値観の背景を考える」ことが社会を前進させる

——「好きなことと社会性のバランス」を追及することが当たり前になってきた一方で、40代以降のような世代になると、どうしてもZ世代をはじめとした若者の価値観が理解しにくいと思います。

40代以降の方がZ世代の価値観を理解しにくいと思うのは、当たり前のことです。成長してきた時代背景も異なりますし、これまで生きてきた自分の常識を否定することはすごく難しいですよね。

けれど、「若者」というものを年齢で捉えず、「最初に新しくなる人」と定義してみると、40歳や50歳の方であっても、新しいことに挑戦する人や、新しいことを受け入れられる人は、「若者」です。

ですから、「近頃の若者は」、とZ世代の価値観を考えなしに拒絶してしまうのではなくて、「なぜ今の子たちはこういう発言をするのか、こういう行動をするのか」、と背景を考えるくせをつけるのが、40代以降の世代にとっては、大事だと思いますね。

日本からはイノベーションが起きにくいという話もありますが、それは古い常識に縛られて新しいことを受け入れられずに拒否してしまう、前例主義があるからです。少子高齢化が進む中でも、前例主義をブレークスルーする「若者」が増えて、日本が前に進んでいくことを願っています。

用丸雅也氏
2017年、東京大学法学部を卒業後、新卒で電通に入社。ブランディングディレクターとして、国民的アーティストのブランディングや、クライアント企業のパーパスやビジョンの言語化とそれに伴うコミュニケーション開発を多数手掛ける。「若者から『諦める』をなくす」という想いを形にするために電通若者研究部としても活動。国内外のクリエイティブアワードを最高賞含め10以上受賞。2023年8月いっぱいで電通を退社し、フリーランスのクリエイターとしての活動と並行して、脱炭素を軸に企業のステークホルダー経営を支援するウェリズムを創業。趣味は、サウナ&スナック巡りと、はじめたてのゴルフ。