東大法学部生が官僚を目指すことは、今も王道ではあると思います。僕も母校が東大なのでよく分かりますが、東大法学部では国家公務員以外の就職先を「民間」と呼ぶ文化があったんです。僕も「用丸は民間に行くんだね」と言われました(笑)。

一方で今の学生は、テロや戦争、未曽有の災害とともに育ってきたからこそ、正解がないという不安と常に向き合っており、大企業だからといって必ずしもサステナブルで安定した収入が得られるわけではないと感じている。それが当たり前だったのは、基本的に社会や経済が右肩上がりの時代というか、「明日はきっと良くなる」という時代だったと思います。

だからこそ、終身雇用を前提とするのではなく、ファーストキャリア、セカンドキャリアとキャリアを重ねる考え方が当たり前になってきています。さらには、フリーランスとして生計を立てる生き方も増えたことから、就職——というよりも「就社」をしてなくてもいいという考え方もあります。そもそも企業に所属するのかどうかという選択肢すら出始めているのです。

この流れにおいて、働き方は、組織型からどんどんコレクティブ(集合体)型になっていくでしょう。僕の周りでも、企業に所属しない気の合う仲間同士、友人以上企業未満のコレクティブで仕事をするあり方が、特にクリエイティブ業界では増えている印象があります。今の時代は思想やビジョンが問われる時代です。そんな時代に大事なのは、「この人と仕事をすると、どんな世界に行けるのか」ということです。

官僚を志す学生が減ったのは、こういった背景の中で、コスパやタイパの面で以前よりも優れた選択ではなくなったということではないでしょうか。長い期間の下積みを経ないと役職に就けない、副業もできない、というのはキャリアとしてのタイパがよくない、と考える人が多いのだと思います。だからこそ、僕の周りで官僚になった人は使命感に溢れる優秀な人が多い印象でした。それでも、3年ほど勤めた後に「民間」に転職する人が多いのも事実ですが。

またご質問では外資コンサルとスタートアップを挙げていただきましたが、外資コンサルを選ぶ層とスタートアップを選ぶ層は全く違うと思っています。私見ですが、外資コンサルは、ビジネスパーソンとしての汎用的なプロフェッショナルスキルが身に付き、「つぶしが効く」からこそ、モラトリアムの延長線上として選ぶ学生が多いイメージです。新しい王道でしょう。