そう話すのは、さかなドリームで代表取締役CEOを務める細谷俊一郎氏。新卒で入社した丸紅などを経て、兼ねてから関心があった食の領域で事業を興すべく、4人のメンバーでさかなドリームを立ち上げた。

キーワードは「ハイブリッド魚」と「代理親魚技法」。東京海洋大学の研究を軸とした、独自の取り組みについて聞いた。

「過小評価されている魚」のポテンシャルを解き放つ

「カイワリ」という魚をご存じだろうか。漢字で書くと「貝割」。アジ科の一種で、尻尾の部分が貝を割ったような形をしていることから、その名がつけられたと言われている。

 

「ニッチな魚なので、ご存知ない方も多いかもしれません。僕自身もこの事業を始めるまで、聞いたことすらありませんでした。カイワリは漁師の方や水産卸業者の方の間で味に対する評価が非常に高く、最も好きな魚に挙げる人もいるほどです。一方でまとまった量が獲れないことや、消費者から知られていないこともあって、なかなか高値が付かない。そのため、わざわざ市場に持っていくのではなく、産地で消費されることも多いんです。個人的には、過小評価されている魚の一種だと考えています」(細谷氏)

現在さかなドリームでは自社ブランド魚の第一弾として、このカイワリを片親とした独自のハイブリッド魚の飼育試験に取り組んでいる。

養殖のノウハウが確立している他の魚と組み合わせることで、カイワリの味を引き継いだ魚を、安定的に養殖生産するのが狙いだ。

ハイブリッド魚のイメージ
ハイブリッド魚のイメージ

さかなドリームではカイワリのような希少魚を探索し、パートナーの養殖業者とともに他の魚と組み合わせた独自のハイブリッド魚を生産する。成長した魚は自社で買い取り、自社のブランド魚として販売していく。

ビジネスモデルは「生産した魚を販売して利益を得る」というシンプルなものだ。

「日本の養殖技術は世界でもトップクラスのレベルですが、品種改良という観点では農産物や畜産物と比べても歴史が浅く、大きな可能性を秘めています。実は日本で海面養殖されている魚は、ブリ類、マダイ、クロマグロ、ギンザケの4魚種で生産量全体の9割を占めると言われるほど限定的なのです。もっと多くの美味しい魚を届けられる仕組みを作ることができれば、日本の海や魚のポテンシャルをさらに解放できるのではないかと考えています」(細谷氏)

ハイブリッド魚×東京海洋大学の技術で新しい養殖業の実現へ

ハイブリッド魚という概念自体は以前から存在しており、さかなドリームの試み自体が“日本初”なわけではない。

例えば近畿大学が開発したブリとヒラマサのハイブリッド魚「ブリヒラ」は北関東を中心に展開するスーパー・ベイシアなどが扱っている。同社の発表によると段階的に養殖量を増やしている状況で、2022年には近大生まれのブリヒラ8万尾を販売した。