「それまでの半年間でさまざまな技術を検討していましたが、その中でも圧倒的に大きな可能性があると感じました。吉崎はこの領域においてトップランナーとも言える研究者ですが、自分の研究を社会実装するという観点では、試行錯誤をしていた。そのために自分の教え子であり、ニッスイで10年以上にわたって養殖技術の研究開発に従事していた森田に声をかけ、一緒に構想を練っていたんです」(細谷氏)

吉崎氏は大の釣り好きで、カイワリに目をつけたのも吉崎氏だ。最初はカイワリの養殖を考えていたが上手くいかず、別のアプローチとしてハイブリッド魚を試してみたところ、手応えを感じたという。

「価値観が一致したことも、一緒にやりたいと感じた理由です。吉崎とは親子くらいの年齢差があり、森田も私や石崎より一回りほど年上。自分たちからすれば2人はかなり先輩の研究者ですが、この研究を本気で社会実装したいという熱意や姿勢を尊敬していますし、何より全員が本気で事業に打ち込むという部分は共通していました」(細谷氏)

実はさかなドリームを立ち上げるまでにも、紆余曲折があった。細谷氏と石崎氏はもともと別の技術シーズを扱った事業を検討していたが、立ち上げ中の組織がまとまらず、空中分解してしまった経緯がある。

さかなドリームの設立自体は2023年の7月だが、それまでの期間も創業メンバーで入念に事業の構想を練り続けてきた。

卸売業者からは「絶対にうまくいかない」

さかなドリームでは9月29日にBeyond Next Venturesからシードラウンドで1億8750万円の資金調達を実施した。この資金を用いて魚種の研究開発や養殖生産体制の構築を進めていく計画だ。

創業前からチームに伴走してきた有馬氏は、事業性や市場性に加えて「未来を見据えながら、強い信念を持ちハードワークできるチームであること」を投資の理由に挙げる。

「アグリテックやフードテック領域においては、海外はクオンティティ(量)志向、日本はクオリティ(質)志向のスタートアップが多いように感じています。水産業の例を挙げると、海外ではトラウトサーモンの養殖を代表するように、特定の魚種においてクオンティティ面での変革を目指す企業が目立つ。一方でさかなドリームのように、さまざまな新しい魚種を生み出し、そこで高いクオリティを目指す企業は、世界的に見ても珍しいです」

「日本の強みでもある水産養殖の分野で、クオリティを追及できる独自の技術を持っていることは大きなアドバンテージ。今後の成長次第でユニコーン(時価総額10億ドル以上のスタートアップ)以上になれる可能性のある企業だと考えています」(有馬氏)