また既存のハイブリッド魚の中には、養殖環境を逃れて自然界に流出したと見られるケースもあり、一部では生態系のバランスを危惧する声も挙がっている。
さかなドリームでは、養殖の過程でハイブリッド魚が海に流出した場合でも自然の生態系に影響を与えないように、先天的に不妊、もしくは不妊処理を施したハイブリッド魚の養殖生産を進めていく方針だ。
そうすることで、さかなドリームが扱う魚種は、今後も同社が独占的に扱うことができるといったメリットもある。「複数のブランドが乱立していて、魚種そのものの魅力では差別化が難しい既存の魚とは異なり、魚種自体の魅力で勝負ができると考えています」(細谷氏)。
食のビジネスをやりたくて商社を選択、フードテックで起業
「これだったら、世界でも戦える事業を作っていける可能性がある」。
細谷氏は吉崎氏と、吉崎氏の研究室の出身で東京海洋大学の准教授を務める森田哲朗氏(現・さかなドリーム取締役CTO)と初めて話をした際、そのように感じたと振り返る。
もともと細谷氏は総合商社の丸紅に新卒で入社し、穀物の流通や事業企画に携わった。ファーストキャリアに商社を選んだのも「食のビジネスをやりたいと思っていたから」だ。
丸紅を退職後は、上場企業やベンチャーなど複数社で経験を積んだ。起業を決意した際も食に関わる事業で挑戦したいと考え、さまざまなスタートアップが生まれているフードテック領域に注目したという。
もっとも、大学の研究室などのツテがあるわけではなかった。そこで頼ったのが、いくつもの研究開発型スタートアップに投資をしているBeyond Next Venturesの有馬暁澄氏だ。
有馬氏は細谷氏の丸紅時代の後輩で、同社を退職した後も定期的に近況報告や情報交換をする間柄だった。
「技術シーズを紹介してくれないか」。細谷氏がそのように相談を持ちかけたところ、有馬氏からは会社の支援プログラムを通じて、一緒に研究開発型スタートアップの創業に取り組まないかと提案された。
そこで細谷氏はサントリー出身で前職時代の同僚でもあった石崎勇歩氏(現・さかなドリーム取締役CMO)とともに、Beyond Next Venturesが運営する創業支援プログラム「APOLLO」に参加することを決める。
細谷氏たちは同プログラムを通じてさまざまな研究シーズを模索するのと並行して、有馬氏がプロジェクトマネージャーを務める農研機構系の起業支援プログラムにも参加。そこで出会ったのが、吉崎氏と森田氏だった。