2011年3月11日、イマジニアを退職したばかりの高重氏は、米国に旅行していた。高校を卒業してからは東京に住んでいて、地元に強い愛着があったわけではなかったという。だが、故郷の被害状況をテレビ越しに見て、心は揺さぶられた。
幸い両親は無事で、実家も大きな被害を受けていなかった。だが福島原発事故もあり、両親は2011年の夏、自宅を引き払った。「実家での思い出が写真として残っていない」ことから、大きな喪失感を覚えたという。
「家の写真を残して振り返ることはあまりない。他人の家を見る機会も滅多にない」──高重氏はこう気づき、家の写真を投稿して共有できるRoomClipの開発に着手。2012年5月に提供を開始した。
投稿イベントや投稿写真のムック本作成でユーザーのエンゲージメント高める
前述のとおり、RoomClipは家具や雑貨などインテリアの写真を共有するSNSだ。ユーザーは自分の写真を投稿したり、気になるユーザーをフォロー。写真に「いいね!」したりコメントを残せる、「インテリア版のInstagram」のようなサービスとなっている。
ユーザーは女性が多く、男女比は2:8。特に30代の女性による利用が目立つ。高重氏が言うとおり、「家を他人に見られる機会は少ない」ため、「センスに自信はあるが他人の評価が気になる」ユーザーがRoomClipを活用するのだという。
RoomClipユーザーの投稿は「ファッションや料理のSNS投稿と比べると頻度は圧倒的に低い」と高重氏はいう。家具の購入や模様替えは頻繁に行うものではないからだ。
そこでRoomClipでは、「エコバッグ・お買い物バッグの置き場所」や「スキンケア用品の収納」といった、特定の投稿を促す「投稿イベント」を開催するなどして、ユーザーのエンゲージメントを高めている。投稿写真を集めたムック本の出版も、ユーザー投稿の増加につながる大きな原動力になっているという。
BtoBソフトウェア開発・EC化を視野に10億円の資金調達
ルームクリップがここ数年で最も注力してきたのは収益化だ。高重氏によれば、最近では「利益が出る月も出てきた」状況だという。
ルームクリップはクライアントが運営するECへの送客や、データ提供から収益を得る。他にも、クライアント製品を活用した投稿イベントの開催、アンケートや座談会の実施、投稿写真を使用したカタログの作成など、幅広いソリューションを提供する。LIXILとは投稿イベント「私のインテリア with LIXIL」を計5回、開催してきた。
高重氏いわく、メーカーが自社商品を活用しているユーザーを独自に集めるのは不可能に近い。ルームクリップにとって、RoomClipユーザーとの接点のコーディネートが、クライアントに提供できる最大の価値だ。