それでは、VRゲームは既存のゲームと比べて何が違うのだろうか。VRゲームは、一度体験すると、これまでのゲームとの差が理解しやすいものの、ヘッドセットを被った経験が少ない人にはその違いはなかなか伝えにくいという難しさがある。
筆者の体験から言うならば、決定的に違うのはゲームから得られる体感の違いだ。VRゲームはVRデバイスによって視覚を覆われ、目の前に表示されている立体感のあるコンピュータグラフィックスに自分のいる空間のすべてを覆われることになる。前後左右を向いてもすべての空間が、バーチャルな空間で覆われている。そして、目の前の空間そのものがすべてゲーム空間へと変わるのだ。
その上で、「VRゲームだからこそ実現できるもの」を体験できたときに、ユーザーは満足感を得られる。いま多くのVRゲーム会社が挑んでいるのは、どうすればこの体験を作り出せるのかという競争である。
200万本以上の販売に成功していると推測されている音楽ゲーム「Beat Saber」(Beat Games)はVRゲームだからこそ体験できるゲームの代表格でもある。
音楽に合わせて前方から飛んでくるブロックを、両手に持ったライトセーバーで斬っていく。リズムに合わせて適切なタイミングで斬ることでスコアが上昇していくが、うまく行けば行くほどだんだんと身体の動きが音楽とシンクロしていくような体感によって満足感を得ることができる。熱中度はなかなかのものだ。
筆者が開発に関わっているオンラインマルチプレイが可能な剣戟ゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」(Thirdverse)では、自分よりも大きな敵も襲ってくる剣も、まさに目の前に迫ってくる感覚を体験できる。
このゲームでは敵が振り込んでくる剣を適切なタイミングで自分の剣で受け止め、隙を作り出し、相手に反撃をすることができる。剣の振りはこれまでのコンシューマ向けゲームのようにボタンを押すといったものではなく、実際に現実空間でコントローラーを振るのだ。こうした動きも、VRでなければ実現できない。
不思議なことにVR空間では、その中で身体を動かせば動かすほど、没入度が上がる。見えている空間からのフィードバックを受けて脳と身体がシンクロしていくことによって、ただのバーチャルな空間ではなく、現実に存在する世界であると信じていくからだろう。
VRらしさは、見えているVR世界を、現実に存在する世界として認識していく行為であることは間違いない。こうした知見は、VR元年以降、急速に蓄積されつつあり、VR空間をさらに興味深い環境へと発展させつつある。