「でも縫製する人には『縫製行員』みたいな肩書きしかなくて、それじゃ18歳の子が『服をつくる人になりたい』と憧れられるわけもない。未だにファックスを使ってる職人たちだって、実はサヴィル・ロウ(オーダーメイドの高級紳士服店が集まるロンドンの通り)や“メイドインイタリー”よりはるか上のすさまじい技術を持っているんです。良い種はまだまだファッション業界にはあるはずなんですよね。それをしっかり拾いあげて、真っ当にスケールさせていくことが、日本の技術のサステナビリティにつながっていくと思うんです」(大丸氏)
そんな日本の職人たちの技術を生かし、ビジネスとして成長させていくため2015年に立ち上げたのが「OVERCOAT」だ。それまでさまざまなコレクションブランドに携わってきた彼が着目したのは、「コート」。その多くが1サイズ展開で、メンズ・レディースのカテゴリ分けも存在しない。膨大なアイテム数でルックスを提案する数多のブランドとは真逆の、ミニマムな構成だ。
「毎日採寸していると、本当に人それぞれ、肩の傾斜や厚み、体型……何から何まで違う。プレタポルテ(既製服)でS・M・Lの3サイズにあらゆる人を押し込めるのは、無理な話なんです。いかに万人にフィットするようなオートクチュール感を味わってもらえるか。最小限のプロダクツの中でそれを表現して、国籍や年齢、性別を超えて、お客様になじむものをつくるのが、パタンナーの腕の見せどころでもある。だからあえて、OVERCOATでは制約をかけた服づくりをしているんです」(大丸氏)
多くのユニセックスブランドは、ゆったりしたオーバーサイズのシルエットによって「男女兼用で着られる」ことを謳うが、一人ひとり異なる肩の傾斜にフィットするように立体的に構築されたOVERCOATのコートは、着る人によってそのシルエットさえ変わる。袖をたくし上げ、ベルトでウエストをマーキングすれば、その人しかできない着こなしとなる。
また、製作工程で生じる型紙や余剰生地、サンプルは最小限に抑えられ、型数を絞ることで生産から販売に至るまでに発生するロスを減らしている。シーズンごとに新たな流行を生み出すハイファッションや、大量生産大量消費型のファストファッションとは真逆の、サスティナブルなものづくりはある種、既存ファッションのアンチテーゼにもなっている。
「料理人もそういうところがある気がするんです。食材をつくる農家の人を知っているからこそ、素材を最大限生かして、余すところなく調理する。僕らもそうなんです。パタンナーとして、生地やパーツをつくる人の仕事を無駄にしてはいけないと思う。だから全部きちんと使って服をつくりあげたいんです」(大丸氏)