「需要の焦点」を追いかける場合、テイクアウトやデリバリーを完全オンライン化させることが第一。ここでは、アプリ立ち上げから商品選択、決済、受け取りなど、本来であればECといった小売業で必要となるノウハウを取り入れなければならない。「豚組オンライン」で実現しようとしているのは、まさにこれだ。
そして「外食のなかに踏みとどまって戦う」ことについて次のように語る。
「そもそも飲食店を構えるとは、家賃や固定費が発生するということ。そういった費用を下げるのは、簡単ではありません。かつ、7割経済になり、残りの3割の売り上げをデリバリーで取り戻そうにも、実店舗での固定費を抱えたままでの運営は難しい。ならば、P/L構造をガラッと変えたほうが、成功できる可能性が高まります。そこで、豚組しゃぶ庵の閉店を決断しました」(中村氏)
今回、閉店を発表したのは「豚組しゃぶ庵」のみ。西麻布にある「西麻布豚組」は継続する。
「コロナ禍での外食産業の動向を見ていると、どのお店でも少人数での予約が多く、一方で11名以上の団体が来ることはほぼなくなりました。つまり、豚組しゃぶ庵のような立地と広さを持つ店舗を継続させること自体が難しい。
同時に、以前に比べると、外食するときの選択肢に『鍋』が選ばれなくなりました。鍋は出汁と具材にこだわれば、お店レベルのものを家で作れます。ですがとんかつや焼き肉といった料理は、家でつくるのは手間だし、お店の味をなかなか越えられない。テイクアウトは冷めてしまう。だから『お店で食べる』の選択肢に入る。そうすると、豚組しゃぶ庵は、店舗・業態そのものが厳しい結論になりました」(中村氏)
「鍋と家の相性はいい」の仮説のもと、緊急事態宣言中に「豚組ホームセット」のデリバリーを開始。大々的に告知せず、常連客のみに伝えていたものの、100名以上が注文。数百万円単位の売上となった。12月18日には、正式にECサイトの「おうちで豚組」での販売を開始すると、1時間半で50セットが完売。夜になって50セットを追加するも、そちらも同日中に完売する人気ぶりだ。
豚組しゃぶ庵βで実験する「座席を選べる」新体験
中村氏がブログで閉店を告知すると、ネット上からもいろいろな声や提案が寄せられた。そのなかに、詳細は非公開だが、具体的な支援の申し出があったという。
「この提案を受け、『この厳しい状況下で、閉店を1年延長できるとしたら何をするのか?』『トレタとして何ができるのか』を考えました。そのとき、トレタで立ち上げていた新規事業10個のうち2つを、豚組しゃぶ庵で実験しようと決めたのです」(中村氏)