「豚組しゃぶ庵は、一時的な閉店をはさみ、1年間の期限付きで営業を続けることになりました」
閉店とオンライン化から一転、実店舗を残すことになった背景には何があったのか? 豚組しゃぶ庵の新業態から見える勝機とは? 中村氏に聞いた。
外食需要が蒸発したのではなく「内食と外食の境目」を動いているだけ
中村氏は冒頭、自身の立ち位置について、豚組オーナー(運営元であるグレイスの創業者・オーナー)ではあるものの、飲食店の顧客管理ツールを開発するトレタの代表であり、現状の業務としてはトレタがそのほとんどを占めていると説明。実際にトレタで開発するツールやアイデアを実験する場として豚組を活用している側面があるとした。
実店舗を持つことによるリスクはあるが、豚組での実験が成功すれば、ほかの飲食店に展開するメリットもあった。グレイスでは、豚組しゃぶ庵のほか、とんかつ専門店「西麻布豚組」といった飲食店も経営している。
「トレタが全国の飲食店から集めたデータによると、緊急事態宣言が発令されていた期間の来店率は昨対比9割減。そこから徐々に回復し、Go To Eatキャンペーンの影響もあり、ピーク時は昨対比9割まで回復。しかし、すぐに5割減になっています。ニュースなどで『外食するのは危ない』と言われ続けていたこともあり、街に人がいても飲食店に入らないという状況は続きました。
今後も影響は残り、外食産業は今までに比べて7割程度の規模の経済になると予想しています。具体的には、5割下がって9割上がるような変動が続きます。赤字は厳しいけれど『7割になる理由』がわかれば、打ち手はあるのです」(中村氏)
中村氏いわく、新型コロナウイルスによって外食における需要がなくなったのではなく、「需要が内食と外食の境目を動いているだけ」とのこと。つまりこれまで外食にあった需要が内食に向かってしまっているだけだという。今までの外食産業の延長線上での成長を考えていくのは苦しいが、少し目線を上げれば打開策が見えてくる。
「豚組しゃぶ庵としてだけでなく、トレタとしても飲食店のみなさんに何かできることはないかと模索。そのため、トレタでも同時多発的に10個ほど(飲食店向けの)事業を立ち上げていました。コロナ禍での生き残りは、豚組しゃぶ庵とトレタともにいろいろ動いていたのです」(中村氏)
外食の選択肢から外されるようになった「鍋料理」
「7割になる理由」がわかれば、打ち手はある──。中村氏がたどり着いたのは、「内食と外食の間を揺れ動く需要の焦点を追いかける」「外食のなかに踏みとどまって戦う」という2つだった。